なぜいま、メカニズムデザイン?
インターネットの時代の仕組みづくり
なぜいま、私たちはメカニズムデザインに注目する必要があるのでしょうか?
インターネットが完全に社会に定着したからです。メカニズムデザインはどんな制度でも上手く扱えるわけではなく、扱いに向いているのは、関数として書ける制度です。インプットを入力したらアウトプットが出てくるのが関数。解釈の幅が広い制度、たとえば憲法やふわっとした慣習なんかは上手く扱えない。
そして関数はコンピュータとめちゃくちゃ相性がいいです。そしていま、インターネット上にいろんな仕組みや制度が載せられます。その設計がいよいよ大切になってきた。
たとえばオンラインで開催するオークションは、メカニズムデザインが最も成功した実用例です※5。オークションはやり方が無数にあるので、どのやり方が一番良いか。ここでの「良さ」は、売上が上がるとか、公正だとか、ユーザー体験が良いとかですね。あるいはオンライン上のコミュニティだと、どういう投票の仕方にしたらみんなの満足は上がるのだろうか。こういう問題が民間サービスのなかにたくさんあります。
坂井さんもそのようなサービスを手掛けているのですか?
はい、デューデリ&ディールの不動産オークションに関わっています。この会社は学生時代の同級生である今井誠さんが役員を務めていて、私はここで優れたオークション方式の設計や調整に携わっています。不動産は単価が高いので、かりにオークションで売上が10%上がったら、額としては大きいのです。各地で同様の不動産オークションを実施し、全国に仲間を広げることで、オークションという優れたプライシングの方式をもっと広めたい。
あと、守秘義務があるものはいえないのですが、いえるものだとブロックチェーン・スタートアップのGaudiyと設計した、新しいオークション方式※6。普通のオークションは売る側が「何個売る」と決めますが、その方式はオークションの途中で、入札の状況で決まるんです。世界初の、完全に新しいやり方です。それなりに売るものの価格は上がるのですが、上がりすぎないのと、欲しい人は確実に買える仕組みになっていて、ユーザーさんからの満足が高かった。どんな時代でも「売り手よし、買い手よし、世間よし」が大事なのは変わりません。
オークション以外だとどのようなものがありますか。
レーティングですね。グルメサイトみたいなレーティングが、もっといろんな職種に対してあったら便利ですよね。これも今井さんと私でそのようなレーティング事業に関わり、年内にはサービスがリリースされる予定です。
レーティングの幅という形で、インターネットではさまざまなユーザーの意思を数字にできそうです。数字になるとメカニズムデザインが活用できるのですね。たとえば公共の分野でも、コロナ危機をきっかけにスマホのアプリでアンケート調査をしたりインターネットで自宅から行政手続きができることがわかったり、オンライン政府への期待が高まっています。
オンライン政府というか、オンラインでやり易くなったことをどんどんする政府が欲しいですね。公共事業のプランがいくつかあって、そのなかのひとつを住民に選んでもらう仕組みづくりなんかは、メカニズムデザインが貢献できることです。行政機関だけが決めるのではなく、住民たちも決定に直接参加するわけです。これは是非やりたいです。
金融と広告の分野はすでにオンラインでの自動入札※7が広く普及しています。
良い仕組みを最初に導入するのは、いつも決まって自由市場です。政治ではなく経済なんです。良い仕組みをうまく使うと自分の利益になるから、迅速に導入する。素晴らしいことです。なかでも金融や広告は、良い仕組みを使ったらダイレクトに価値が生める分野です。そういうところから世の中は変わっていくのだと思います。
時価総額で世界のトップ集団にいるFacebookとGoogleは自動入札の広告モデルで、Amazonもレーティングをフル活用しています。つまり、デジタルビジネスで関数を使いこなせている企業が世界を変えている。あらゆる産業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるなか、メカニズムデザインを活用することで世界を変える産業領域はまだ他にもあるのではないでしょうか。
GoogleとAmazonについていうと、両方とも超一流のプロを雇っています。Googleだと、一番有名なのはハル・ヴァリアン。カリフォルニア大学バークレー校の看板教授でしたが、いまはグーグルに引き抜かれてチーフエコノミストを務めています。彼は、Googleの広告オークションの仕組みを設計して広告の売り方を発展させました。Amazonも、経済学者をたくさん雇用しています。需要曲線の推計など、経済学の知識を使ってビジネスを展開しています※8。