電通総研、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(横浜市港北区)の谷口尚子教授、同訪問研究員のアカリースキ・プラメン博士、名古屋商科大学ビジネススクール(愛知県名古屋市)のパク・ジュナ准教授は、「コロナ危機下の価値観に関する国際調査(Values in a Crisis Survey)」(以下「VIC調査」)の日本版第1波を2020年5月15日と16日に実施しました。調査では、緊急事態宣言下の地域と解除地域とに分かれた時期における、新型コロナウイルス感染症に関する日本人の経験や不安、政府と地方自治体の首長・医療関係者・メディアへの信頼、今後の国・社会・経済に対する人びとの意識などを明らかにしました。※調査概要は、こちらをご覧ください。
調査からの主なファインディングス
緊急事態宣言下にあった都道府県の居住者や若年層ほど、健康・仕事・家庭に対する新型コロナウイルス感染症の影響を経験している(以下「コロナ関連経験」)。
コロナ関連経験がある人※1、普段から不安を感じやすい人、幸福感の低い人は、不安が大きい。
新型コロナウイルス感染症について不安を感じている人は、政府(国)・地方自治体の首長・医療関係者・メディアへの信頼感が低い。
コロナ危機において、いつも以上に他者との「連帯」を感じている人もいるが、不安を感じている人は他者をやや厳しく見ている。
今後の感染の可能性や国・経済の先行きについて、強い不安がある。また経済や福祉の安定した社会が求められている。
◎レポート詳細はこちらからご参照ください。 VIC 調査 日本版第1波 レポート
今後はVIC調査の第1波データの取得が完了している各国(イギリス・ドイツ・スウェーデン・オーストリア・ギリシャ・ジョージア・ブラジル・韓国・日本)のデータとも比較しながら、「ポスト/ウィズ・コロナ」時代における日本人の行動や価値観の特徴、そして未来に向けた意識を探るため、調査の第2波、第3波と継続しておこなっていきます。
今回の調査結果にあたり、慶應義塾大学大学院教授・谷口尚子氏のコメントを紹介します。
慶應義塾大学大学院教授・谷口尚子氏のコメント
(聞き手:電通総研 プロデューサー 馬籠太郎)
VIC調査の日本版第1波について、谷口さんにとって想定外だった結果、コロナ危機だから得られた特徴的な結果だと思う部分があれば教えてください。
新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言下という「危機」においては、他者に対する警戒心が高くなると考えていましたが、「他の人とより連帯を感じる」という回答の方が「より敵意を感じる」という回答より少し多かったことに、救われる思いがしました。
また、新型コロナウイルス感染症は高齢層で重症化する可能性があると指摘されているので、高齢層(本調査では50代以上)で不安※2が大きいと想像していましたが、20代で不安が大きいという結果でした。実際、若者も仕事やその他の活動により新型コロナウイルスのリスクにさらされているからかもしれません。
本調査からは日本人がコロナ危機において大きな不安を抱いていることがわかりました。不安を小さくするためには、何が必要だと思われますか?
「不安を感じやすい人」や「持続的幸福感(充実した人生を送っているという意識)が平均未満の人」の不安は大きく、「リラックスしている人」や「持続的幸福感が平均以上の人」の不安は大きくありませんでしたから、「ココロの免疫力」が大事。しかし、元々の人の性質や価値観はすぐには変わりませんから、少なくとも不安な気持ちのときには、ネガティブな情報にばかり接触するのは避けた方がよいかもしれません。
本調査でも第7回世界価値観調査と同様、今後の日本社会の目指すべき方向性についての質問をしました。「どちらともいえない」と回答する人の割合が増え、人びとのとまどいが大きくなっている様子が見てとれました。また、行政サービスの充実を重視するなど、安定を志向する傾向が見られました。人びとが望む今後の社会像について、どのように解釈されますか?
世界価値観調査では郵送法、本調査ではインターネット調査と、手法が異なり、回答者のタイプが違う可能性があるので、直接的な比較は難しいのですが、「どちらともいえない」という回答が多いということは、やはり日本社会の目指すべき方向性について今は考えがまとまらない、ということでしょうね。
ただ興味深いのは、「自由に競争し、成果に応じて分配される社会」「財政規律を重んじ、国や地方自治体の借金を大きくしない社会」を望むという自由・自律主義志向が強い一方、「税負担は大きいが、福祉などの行政サービスが充実した社会」「行政機関による多面的な規制を通じて、国民生活の安全や経済の安定を守る社会」という逆の志向、すなわち福祉国家志向も見られたことです。今後はミクロの分析も継続実施していきたいと思います。
今後、本調査の国際比較や、調査の第2波、第3波、また、それらとの時系列比較をしていくことになるかと思いますが、注目されているポイントや変化を追いかけたいと思われているポイントはありますか?
時間経過や地域差が、回答者個人の立場や特性とあいまって、回答者にどのような影響をもたらすのか、引き続き注目していきます。新型コロナウイルスそれ自体だけでなく、今後は景気の落ち込みなどからも影響を受けるのではないかと考えられます。さらに国際比較分析をおこない、コロナ危機下の日本人の特徴を探求したいです。
「自粛警察」と呼ばれるような相互監視行為は窮屈ですので、不安やストレスを減じつつ、お互いのためになる行動をとれるようにするにはどうしたらよいか。他の研究者も巻きこみ、一緒に考えていくことができたらと思います。
「コロナ危機下の価値観に関する国際調査」概要
世界的に広がるコロナ危機において、各国の状況や人びとの行動や価値観の変化を探るため、「世界価値観調査」協会副会長のChristian Welzel氏が「コロナ危機下の価値観に関する国際調査」を始動させました。日本チームは、5月14日緊急事態宣言の解除が決定された39県と、それ以外の地域(北海道・東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県・大阪府・京都府・兵庫県)に分かれた5月15日および16日に、全国居住の成人3,000人を対象にインターネットで調査をおこないました(調査会社:株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント R&D)。回答者の性別・年代・居住地域の分布は、国勢調査結果に合わせています。
「コロナ危機下の価値観に関する国際調査」の詳細は、「世界価値観調査(World Values Survey)」ウェブサイト内のページを参照。
URL:
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSEventsShow.jsp?ID=416
※1:コロナ関連経験がある人 コロナ危機のなかで下記を経験した、と回答している人びと。
「感染を疑う軽い症状を経験した/している」、「感染を疑う重い症状を経験した/している」、「陽性判定」、「軽い症状を経験した/している」、「陽性判定、重い症状を経験した/している」、「陰性判定を受けた」、「身近な人が軽い症状を経験した/している」、「身近な人が重い症状を経験した/している」、「仕事を失った」、「廃業しなければならなかった」、「パートタイムの仕事を減らされた」、「テレワークで仕事をした」、「学校・幼稚園・保育園が休みなので昼間に家で自分の子どもの世話をしている」
※2:「不安」(合計値)の算出方法
「緊張感、不安感、いら立ち」、「心配」、「落ち込み」、「意欲減退」、「孤独感」の5設問に対する回答を、「まったく煩わされなかった=1」「数日間煩わされた=2」「1週間以上煩わされた=3」「ほとんど毎日煩わされた=4」として算出。最小値は 5 、最大値は 20となる。