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「クオリティ・オブ・ソサエティ」レポート
過去のレポート記事は、以下のリンクからご覧いただけます。
毎年掲げるテーマに即した、有識者との対談、調査結果、海外事例、キーワードなどがまとめられています。
電通総研所長 谷尚樹
クオリティ・オブ・ソサエティとSSX 電通総研ウェブサイトのコンテンツのご紹介
2020.09.14

# クオリティ・オブ・ソサエティ

# 余力

# SSX


2020年2月、電通総研ウェブサイトをローンチいたしました。
ちょうどその頃に急拡大し始めた新型コロナウイルス感染症の深刻さを、私たちはまだ十分理解していませんでした。それから激動の半年が経過しました。
電通総研ウェブサイトは、電通総研の活動の基盤となるメディアです。人びとの意識や社会の変化を探りながら、タイムリーなコンテンツを発信し、志をともにする仲間の皆さん(Peer)とのネットワークを広げていきたいと思っています。2020年秋には英語版をスタートする予定です。
時期をさかのぼりますが、電通総研は2019年4月に、活動のテーマとして「クオリティ・オブ・ソサエティ」を掲げました。

クオリティ・オブ・ソサエティについて https://institute.dentsu.com/about/

世界も日本も社会的な課題が山積し、ほとんどの課題が解決を先送りされたままの状況でした。
国際社会においては、SDGsをはじめとする課題に取り組む協調体制を重視するか、自国第一主義か、という、相反する動きが明らかになっていました。
また、テクノロジーの急速な進歩に伴って、AI時代の人間社会はどのようなものであるべきかという課題が投げかけられていました。
日本では、人口減少、経済成長の停滞、デジタル化の遅れ、自然災害対策、東京一極集中など、固有の社会課題がさらに深刻化していました。

電通総研は、このようなグローバル、テクノロジー、日本の3つの領域の課題に注目し、「クオリティ・オブ・ソサエティ」をテーマとした活動をこれまで進めてまいりました。

2020年、世界は新型コロナウイルス感染拡大の問題に直面し、社会は激変しています。日本も例外ではありません。電通総研はすべての活動をリモートスタイルに転換しました。


3つの活動―調査、情報発信、ネットワーク

2019年4月以降の電通総研の活動を、調査、情報発信、人材とのネットワーク構築の3つで振り返ります。

第一は、独自の調査です。
電通総研は、日本国内を対象に、社会についての人びとの意識調査をおこなってまいりました。新型コロナウイルス関連では、2020年5月、6月、8月の3回にわたって「電通総研コンパス」調査を大都市圏でおこないました。
各回のテーマは、「『いのちを守る STAY HOME 週間』 における人の意識・行動」(5月)、「『新しい生活様式と社会像』に関する人の意識・行動」(6月)、「『いつもと違う8月』における人の意識・行動」(8月)です。
「電通総研コンパス」の結果から「効果的な感染防止策は他人との接触やランダムな移動をできるだけ避けることである」という認識が人びとに浸透していることが明らかになりました。また、人びとは社会経済活動の再活発化の必要性も認識していますが、行動を判断する際にもっとも影響を受けるのは「家族」であるという傾向も定着しているようです。


◎電通総研コンパスvol.1「『いのちを守る STAY HOME週間』における人の意識・行動」について
◎電通総研コンパスvol.2「『新しい生活様式と社会像』に関する人の意識・行動」について
◎電通総研コンパスvol.3「『いつもと違う8月』における人の意識・行動」について

グローバルには、第7回「世界価値観調査(World Values Survey)」に参画し、2019年9月に日本での調査を実施しました。実査の時期は新型コロナウイルス感染拡大が顕在化する前だったため、その影響は反映されていませんが、日本調査においては若い世代の「自分の生活の中で仕事を重要と考える」割合が2010年の前回調査に比べて大きく低下したことが注目されるトピックスの一つでした。日本以外に76か国のデータも揃いましたので、日本国内の時系列比較だけでなく、国際比較の観点からも分析を深める予定です。
2020年5月には、世界価値観調査に携わる研究者が呼びかけた「コロナ危機下の価値観についての国際調査(Values in a Crisis Survey)」に電通総研も参画いたしました。コロナ危機による影響に着目したこの国際調査は来年も継続して実施されますので、人びとの意識の国際比較や時系列変化が分析できると思います。

◎「世界価値観調査2019」の日本調査の結果はこちら
◎「コロナ危機下の価値観についての国際調査」の日本版第一波の結果はこちら


第二は、情報発信です。
電通総研は、ウェブサイトを2020年2月にローンチして以来、日本社会の最新の動向を取り上げたコンテンツを掲載してまいりました。
「アフターデジタル」「AIと未来社会」「エストニアの電子政府」「メカニズムデザイン」など、時代に先駆けたテーマを取り上げ、多彩なPeerの提言を掲載しました。
3月には「世界価値観調査」を30年間日本で実施した結果をもとに、時系列比較レポートを掲載しました。今後も、電通総研が実施した調査の分析を積極的に発信していきます。
さらに、グローバルな視野でウェブサイトのコンテンツを制作し発信するために、ウェブサイトの英語版の充実も図ってまいります。

新型コロナウイルスの影響で、大学の講義はオンライン化され、研究機関などによるオンラインセミナーが盛んになりました。
電通総研もウェブサイトからの発信だけでなく、ウェビナーなどの新しいコミュニケーション・スタイルにも取り組んでまいりたいと思います。

第三は、多様な人材とのネットワークの構築です。
電通総研は、さまざまな領域の先進的な専門家の皆さんと一緒に活動をおこなっています。このような活動スタイルを「Peer to Peer」と名づけています。
多様な人材との出会いの機会を増やし、「Peer to Peer」のネットワークをさらに拡大していきたいと思います。

SSXが社会に余力をもたらす

ここで電通総研が注目しているキーワードであるSSX(社会システム・トランスフォーメーション=Social System Transformation)を紹介いたします。

デジタルネットワーク社会は感染症への耐性が強いことが認識され、世界のあらゆる社会システムや組織において、デジタル変革(Digital Transformation、以下「DX」)が重要な目標の一つとなりました。もともとデジタル化が遅れていた日本社会も、今後、官民を挙げてDXを加速していくと思われます。
日本社会の大きな課題は、余力が乏しいことです。たとえば、医療、介護、保健所などの領域では、平時でも人員体制がギリギリで余力がなかったことがコロナ危機を契機として明らかになりました。また対人対面型サービスの仕事や現場がある仕事の領域でも、慢性的に人手が足りなくなっていました。これらは社会にとって必要不可欠な領域でありながら、テレワークやAIに置き換えにくい仕事です。さらに、気候変動の影響により、毎年のように大規模な台風災害や河川氾濫が発生していますが、早期の復旧・復興が困難になっています。高齢化が進む地域では、さらに事態は深刻です。日本の地域社会にも余力が乏しいことを痛感します。日本は少子高齢化が進み、総人口はすでに減少しはじめており、2026年には1億2千万人を割り込むことが予測されています。少子高齢化で人口構成も大きく変わるため、従来の社会システム全般をそのまま維持することは困難でしょう。効率性だけでなく耐久性や信頼性を高める大胆な変革が必要です。DXを一つの手段として、SSXによって社会に余力をつくる。余力があってはじめて、未来に向けた新しい価値の創造や想定外のリスクへの対応が可能になります。世界に例のない少子高齢化が進む日本が、SSXによって新しい社会様式を見出すことができれば、世界のモデルになるでしょう。

◎電通総研は株式会社電通のプランニングチームと共同して、キーワード集を取りまとめました。
―日本の潮流・SSXで創る「余力社会」という未来へ―実現に向けた20 のKeywords―


グローバルな社会課題を視点に

いま世界で、経済格差と分断が進行しています。グローバルな社会課題の解決が進まず、「クオリティ・オブ・ソサエティ」が揺らいでいます。
現代に生きる私たちが、真摯に社会課題の解決に取り組むことが、次世代の人たちに対する責任だと思います。
他者を思いやり、多様性を認め合い、連帯の輪を広げることが必要だと思います。

電通総研は、グローバルな視点をもって、明るい未来を拓く萌芽を着々と育んでいる人びとと広く連携しながら、「クオリティ・オブ・ソサエティ」の活動を進めてまいります。



谷尚樹 たに・なおき

電通総研所長・編集長

1956年愛知県稲沢市生まれ。1980年株式会社電通入社、1987年~93年に株式会社電通総研に出向。2019年4月『電通総研』所長。

1956年愛知県稲沢市生まれ。1980年株式会社電通入社、1987年~93年に株式会社電通総研に出向。2019年4月『電通総研』所長。