クオリティ・オブ・ソサエティ。人を中心に、社会を考える
グローバルとローカル、いまと未来、そして人間そのものについて…いくつもの観点が挙がりましたが、それらを行き来しながら『電通総研』はどんなことを志向していくのですか?
『電通総研』は、活動のテーマとして「クオリティ・オブ・ソサエティ」という言葉を掲げています。これは実は、1992年に株式会社電通総研が発表したレポート「日本の潮流」のサブタイトルとして使った言葉なんです。
当時は、バブル経済が崩壊していく時代でした。人も企業も、経済的な豊かさを謳歌した社会に代わってどのような社会が訪れるのかを探っていた時期でした。『電通総研』は「これからの社会の質」に焦点を当てて、レポートを作成したのです。実は、私もそのころの『電通総研』のメンバーでした。
いまは、時代背景が全く変わっています。いまでこそインターネットによるコミュニケーションやデジタルデバイスが社会の重要なインフラになっていますが、1992年には携帯電話も十分普及していない時代でした。
先ほど申し上げたように私たちの社会は、課題がどんどん増え続け、複雑化しています。そこで『電通総研』が新しい活動を始めるにあたって、もう一度、社会の質に注目してみよう。社会を構成する人の意識や価値観がどのようなものであり、どのように変化しているのかを把握してみよう。人を中心にした視点から、「社会の質」を考えてみよう。
そういうことで、再び「クオリティ・オブ・ソサエティ」という言葉を引っ張り出してきたというわけです。
具体的にはどのような活動を考えられていますか?
活動の手始めとして、社会を構成する人の意識や価値観について独自に調査を行うことにいたしました。電通は顧客のマーケティングをお手伝いする会社として、長年にわたってさまざまな調査の仕事を行っています。
マーケティングは、企業が生み出すモノやサービスと、顧客との対話の仕事です。モノやサービスを消費してもらうためには消費者の意識や行動を把握しないといけない。メディアビジネスについても同じです。読者、視聴者、聴取者、メディア接触者の意識や行動を知ることが基本です。
ですから、『電通総研』が「クオリティ・オブ・ソサエティ」の活動を行うにあたって、社会についての人の意識や価値観を把握することが、第一だと考えました。
さまざまな社会の制度やシステムや、それを支える技術などがサプライサイドであるとすると、私たちは人の意識、つまりデマンドサイドの側面を大切にしたいと思います。消費や情報行動についての電通の経験が生かしていけるのではないかと思っています。
そうはいっても、人の意識や潜在的な思いを見つけだすことは、そう簡単ではない。調査の設計や分析にあたっては、外部の識者の方々に相談して進めています。
結果がまとまった際にはこのWebメディア『電通総研』で公表していくつもりです。多くの方たちに関心を持っていただき、「クオリティ・オブ・ソサエティ」の意見交換の場が広がることを期待しています。

Peer to Peerの関係が次々と広がる場
そうした方々と、どんな関わり合いをしていきたいですか?
イメージしているスタイルは“Peer to Peer”※2です。ご存じのとおり、もともとはコンピューターなどの端末同士が対等に通信するという意味で、翻って人と人とのフランクで対等な関係性という意味でも使われ始めているようです。
『電通総研』の「クオリティ・オブ・ソサエティ」の活動は、すべて自前で完結しようと思っているわけではありませんし、できるわけもありません。誰かがリーダーでもフォロワーでもない、フラットで開放的な関係をどんどん広げていきたい。
基本的には私を含め、『電通総研』の個々のメンバーも、あくまでPeerのひとりとして参加し、つながり合って、活動していきたいと思っています。
電通総研のロゴを見ていただくと、左側の「クオリティ・オブ・ソサエティ」の部分が正方形になっていて、住宅の間取り図に見立てると四畳半の部屋に見えると思います。四畳半にしては開口部がとても大きいでしょ。いろんな人が自由に出入りできるような設計になっているんです(笑)。
オーナーとしては来客大歓迎です。『電通総研』は“Peer to Peer”の関係をどんどん広げていく場にしたいと思っています。