電通総研

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電通総研コンパス
コロナと家族 調査から見えてきた、これからの家族の距離感

電通総研は、2020年5月から、人びとの意識や行動について、インターネット調査「電通総研コンパス」を実施しています。
今回は、5月実施のvol.1および8月実施のvol.3の調査結果から見えてきた家族の変化について考えてみます。

    家族の意見をもとに行動を判断



    電通総研がおこなっている定量調査「電通総研コンパスvol.1(5月実施)、vol.3(8月実施)」において、「自分の行動を判断するために、あなた自身が最も影響を受ける人は誰ですか」とききました。どちらの調査でも、「家族」と答えた人がもっとも多い結果となりました。(図1)



    4月7日に7都府県に発出された緊急事態宣言や、4月下旬に発表された1都3県の「いのちを守るSTAY HOME 週間」では外出自粛が要請され、店舗の休業やイベントの中止などとあわせて広く社会に浸透しました。感染拡大の第一波以降、首相や知事は連日記者会見を実施。医療専門家による見解の発信なども相次ぎ、テレビや新聞で盛んに取り上げられました。一方、SNSによる発信や拡散された情報の中には、信憑性の乏しいものもありました。

    人びとは膨大な情報に接しましたが、終息の見通しが立たないことを認識し、不安が高まるとともに、何が正しい情報なのか判断しづらい状況におちいったように思われます。その結果、行動を判断する際にもっとも信頼するのは「家族」、という選択に繋がったのかもしれません。

    7月半ばから感染の再拡大が懸念され、人びとは「いつもと違う8月」を過ごすことになりました。8月に実施した第3回調査でも、5月と同様に「自分の行動を判断する際に最も影響を受ける」のは「家族」という回答がもっとも多い結果となりました。自分の行動を判断する時には、一番身近な存在である家族の意見をもとにしたい。人びとのそういった考え方に変化がないことが明らかとなりました。



    コロナ危機に揺らいだ家族



    感染拡大が危ぶまれていた2月27日に、全国の小中学校と高校、特別支援学校に対して3月2日からの一斉臨時休校の要請が出されました。あわせて、幼稚園や保育施設なども感染リスクから休園を余儀なくされました。その結果、共働き家族やひとり親家族の働き手が子育てのために、仕事を犠牲にするのもやむを得ない状況になりました。医療や介護の従事者も例外ではなく、自分の子育てのために現場を離れざるを得なくなるケースも増え、感染不安とあわせて社会的混乱のリスクを露呈しました。

    5月の「STAY HOME 週間」では、多くの人が大型連休を自分の家で過ごしたことが調査結果からも明らかとなりました。そんななか、「STAY HOME 週間」において「外出自粛要請などを受けて、それ以前と比べて、あなたの時間に余裕は増えましたか」ときいたところ、全年代で「増えた」あるいは「変わらない」が多い結果となりました。一方で「減った」と答えた人に注目してみると、女性の30代・40代で、男性や女性の他年代と比べてその割合が多くなりました(図2)。また、女性30代・40代のなかでも子供の有無で大きく差があり(図3)、一斉休校と大型連休の外出自粛によって、母親の負担が増えたことがうかがえます。





    6月に入り、分散登校など三密を避ける形で学校は再開しましたが、4月・5月の休校の余波は大きく、8月の夏休みがいつもの半分以下となった地域も多々ありました。夏休みの帰省やお盆行事への参加を自粛したと答えた人は、全体の47.2%でした(図4)。



    実家を離れて一人暮らしをしている学生が実家の親から「帰ってこないで」と言われるなど、人びとはいつもと違う夏休みを過ごすことになったようです。プールや海水浴場も休止や入場制限などを実施、夏の風物詩である花火大会も相次いで中止となり、例年と変わらないのは、暑さと蝉の鳴き声だけだったのではないでしょうか。感染不安のなか、多くの人が自分と家族のライフスタイルの揺らぎを感じながら過ごす夏となりました。



    多様化する家族形態と社会システムのずれ



    このように調査からは、人びとの意識や行動のさまざまな変化が見えてきました。一方で家族の形態は多様化しており、コロナ対策をきっかけに、現実の社会システムとのずれが明らかになってきたように思います。

    国や地方自治体の行政システムは、住民登録による世帯を単位として設計されていますが、現実とは異なる部分もあります。たとえば、介護施設に入所している方や、住民票を実家に残したまま別の地域に進学した大学生など、居住の実態と住民登録が一致していないケースも多いのではないでしょうか。行政システムと昨今の家族の形態に、齟齬が生じてしまっているように見受けられます。

    政府による布製マスクの配布には、日本郵便の「全住所配布システム(タウンプラス)」が用いられましたが、転送サービスが適用されないため、空き家の郵便受けに投函されて受け取る人がいないというケースがありました。
    9月から10月にかけて実施された国勢調査においては、書類が届かなかった世帯もあったようです。また、インターネット回答と郵送提出、国勢調査員の訪問による回収が併用されましたが、回答済みの世帯に対して、未提出通知が届いてしまう、あるいは調査員が督促のために訪問してしまう、といったトラブルも少なからず発生していたようです。

    人びとの居住形態や家族のあり方が多様化した今の日本において、全国民に物資や情報をいきわたらせる、あるいは回収するシステムが完備されていない、ということが明らかになったのです。



    見つめ直される、家族の距離感



    コロナ危機は、物理的な距離感だけでなく心の距離感といった側面からも家族と自分の関係を考える、いわば「ファミリーディスタンス」を見つめ直すきっかけとなったのではないでしょうか。

    コロナ危機を乗り越えるために、いちばん身近な家族と相談したい、と多くの人が感じたことでしょう。しかし単身世帯の人びとは、人と接触することが直接リスクにつながるという状況で、孤立感を覚えていたかもしれません。一方で、在宅勤務の増加は、「仕事を家に持ち込む」ことによる家庭内不和を生じさせてしまった側面があります。「コロナ離婚」という言葉まで生まれました。ワークライフバランスが、働く人個人の課題ではなく、家族みんなで向き合う課題になったといえるかもしれません。また、家庭内暴力が増加しているという指摘も見逃せません。

    しかしそういった世の中だからこそ、一人ひとりが「ファミリーディスタンス」を改めて考えてみることで、この危機を乗り越えた先の未来を、より良いものにしていくことができるかもしれません。


《「電通総研コンパス」調査概要》

「クオリティ・オブ・ソサエティ」の活動の基盤として、「人びとの意識の変化がどのような社会を形づくっていくのか」を捉えるため、「電通総研コンパス」と称し定量調査を行っています。

第1回調査(「いのちを守る STAY HOME 週間」における人の意識・行動)
調査時期: 2020年5月8日~10日
調査手法: インターネット調査
対象地域: 東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県
対象者 : 18歳~79歳男女 1,000人 ※高校生を除く
調査会社: 株式会社電通マクロミルインサイト


第3回調査(「いつもと違う8月」における人の意識・行動)
調査時期: 2020年8月21日・22日
調査手法: インターネット調査
対象地域: 北海道・東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県・愛知県・大阪府・福岡県
対象者 : 18歳~79歳男女 4,320人 ※高校生を除く
調査会社: 株式会社電通マクロミルインサイト

Illustration by 小柳祐介
Text by 千葉貴志



千葉貴志 ちば・たかし

電通総研プロデューサー

1985年東京都生まれ。2008年株式会社電通に入社。2020年2月より電通総研。クオリティ・オブ・ソサエティ調査、電通総研コンパスvol.1、vol.2を担当。スポーツ、メディアに関わる過去の業務経験をもとに「地域社会とスポーツ」、「メディアの未来」を主な活動テーマとしている。

1985年東京都生まれ。2008年株式会社電通に入社。2020年2月より電通総研。クオリティ・オブ・ソサエティ調査、電通総研コンパスvol.1、vol.2を担当。スポーツ、メディアに関わる過去の業務経験をもとに「地域社会とスポーツ」、「メディアの未来」を主な活動テーマとしている。