坂井豊貴氏
2020年ノーベル経済学賞に見る、学問のビジネス活用と実業家の関係
本日12月10日、ノーベル賞授賞式が開催されます。2020年の経済学賞は、米国スタンフォード大学のポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンの両氏に贈られます。慶應義塾大学教授・坂井豊貴氏は、今回も含めて何度も受賞者の予想を的中させて世間を驚かせました。最新の経済学動向に詳しい坂井氏に、今回の受賞の意義についてコメントをいただきました。
聞き手:電通総研 プロデューサー 日塔史
「経済学のビジネス活用」のインパクト
今年のミルグロム氏とウィルソン氏のノーベル経済学賞受賞の意義は何でしょうか?
※両氏の実績に関しては、こちらを参照。
オークション理論が学問として発展し、またビジネスツールとして確立したので、それに対して授賞がなされました。米国で本格的に始まった周波数オークションでは、導入した各国は兆円単位の利益を上げました。Googleは広告枠をオークションで販売していますが、その方式の設計を一流の経済学者が担当しているのは昔から有名です。
ミルグロム氏は2012年にマーケットデザインで受賞があった際に賞を得ていてもおかしくありませんでした。彼はオークション理論を発展させましたが、それのみならず「経済学のビジネス活用」を進める潮流を作りました。近年の受賞者の中でも非常にインパクトの強い活動をした偉人です。
特殊スキルを持つ「異能の実業家」が求められている
今回の受賞に見られる通り、社会科学分野でも学知の社会実装が進んでいます。そのような観点からいま、注目されているテーマや学者はいますか?
かつて経済学は「経済学帝国主義」のような言い方をされていました。経済学で発展したツールを、いわゆる経済以外の対象、例えば政治や家族にも適用していたときのことです。いまは適用する対象を広げるよりは、深める時期なのかなと思います。例えばオークションだと、オークションの一般理論を作るというのはもう正直面白くない。不動産オークション専用の理論を作るとか、その理論を実用する人を増やすとかで、きっちり実用を社会に根付かせる。学者だけでは決してできませんから、企業とのコラボレーションが要ります。
そこで重要なのは、学問を使おうとするビジネスパーソンですね。学者とビジネスパーソンの協働は、口でいうほど簡単ではありません。両者はそれまで歩んできたキャリアパスや文化が違うし、面白いと思うものが違ったりします。その文化や意識のすり合わせができる、しようとするビジネスパーソンというのが、おそらくもっとも希少で市場価値が高いと思います。私は不動産オークションの設計でデューデリ&ディールの今井誠さんと組んでいますが、彼はそのような非常に希有な人材です。
いま現在は、学者とビジネスパーソンとの協働では、学者のほうが注目されがちです。しかし本当はそのような協働をしてしまえるビジネスパーソンのほうが特殊スキルが要りますし、注目すると面白いです。ブロックチェーン・スタートアップGaudiyの社長・石川裕也さんもそのような人です。私は彼と一緒にゲームカードのオークション方式を開発しましたが、「ここで学問を使う必要がある」ことが深いレベルでわかっている方です。
今井さんや石川さんのように、経済学と経済学者を使いこなそうとする「異能の実業家」が、一番面白い人たちだと思っています。
坂井豊貴 さかい・とよたか
慶應義塾大学経済学部教授
ロチェスター大学経済学博士課程修了(Ph.D.)。株式会社デューデリ&ディール・チーフエコノミスト、Economics Design Inc. 取締役、Gaudiy Inc. 経済設計顧問などを併任。著書に『多数決を疑う』(岩波新書、高校教科書に掲載)、『マーケットデザイン』(ちくま新書)など。著書は多くアジアで翻訳されている。
ロチェスター大学経済学博士課程修了(Ph.D.)。株式会社デューデリ&ディール・チーフエコノミスト、Economics Design Inc. 取締役、Gaudiy Inc. 経済設計顧問などを併任。著書に『多数決を疑う』(岩波新書、高校教科書に掲載)、『マーケットデザイン』(ちくま新書)など。著書は多くアジアで翻訳されている。
日塔史 にっとう・ふみと
電通総研プロデューサー/研究員
山形県生まれ。2020年2月より電通総研。現在の活動テーマは「次世代メディアとコミュニケーション」。経済学・経営学のバックグラウンドと、マスメディア・デジタルメディア・テクノロジー開発での実務経験を活かして、マクロ視点からコミュニケーションのメガシフトを研究する。
山形県生まれ。2020年2月より電通総研。現在の活動テーマは「次世代メディアとコミュニケーション」。経済学・経営学のバックグラウンドと、マスメディア・デジタルメディア・テクノロジー開発での実務経験を活かして、マクロ視点からコミュニケーションのメガシフトを研究する。