【インタビュー②】
アプレンティスシップ・コーディネーター:ステファニー・ビショップさん
アプレンティスシップ・コーディネーター
職業:フューチャータレント・コンサルタント
ITコンサルタント企業でのアプレンティス採用
ビショップさんは2015〜2020年のあいだ、ITコンサルタント企業で若手の従業員育成の責任者として、数百人のアプレンティスの採用とマネジメント、サポートをしていました。その後、コンサルタントとして独立し、アプレンティスシップに興味のある企業に、この制度の申し込み方法や採用プロセスなどをアドバイスしています。
ビショップさんが勤めていたITコンサルタント企業では、IT関連を中心としながら、財務、人事、プロジェクト・マネジメントなどの分野で、毎年80~100人程度のアプレンティスを採用していました。アプレンティスの多くは、セカンダリー・スクール(日本の中学・高校に相当)を卒業したばかりの若者だったそうです。また、すでにこの企業で働いている従業員がアプレンティスシップを利用し、スキルアップするケースもありました。
この企業のアプレンティスシップはレベル2(義務教育レベル)からレベル7(修士レベル)までありました。学位レベルアプレンティスシップを作った理由の1つは、「大学に行く余裕がない若者が学位を取得できるチャンスを提供するためでした」とビショップさんは言います。この企業のデジタル&テクノロジーソリューション・アプレンティスシップは、英国で初めての学位レベルアプレンティスシップとなり、先駆的事例となっています。
さらに、ジェンダー平等の実現に向けても積極的に取り組みました。アプレンティスシップは、「男性だけが利用するものだと思われがち」な上に、コンピューター・サイエンスの分野を志す女性や、女性を積極的に採用する企業が少ないため、「女性を引き付けることは大切」だとビショップさんは指摘します。彼女の勤務先では、アプレンティスのジェンダーバランスに鑑み、テクノロジーを学んだことのない女性向けのプログラムを作ったそうです。
アプレンティスの採用プロセス
アプレンティスの求人を幅広く知らせるため、この企業ではソーシャルメディアを使ったり、学校を訪問して説明するなど、さまざまな方法を取りました。求人に興味をもった人はオンラインで応募し、特技の評価、適応力テストを受けます。その後、2回のビデオ面接を経ると、個々の強みを見極めるグループ演習と個人演習が最終試験です。このとき重視していたのは、「学業成績だけではなく、適応力です」とビショップさんは語りました。彼女が採用したアプレンティスの定着率は非常に高く、学位レベルアプレンティスシップを修了したアプレンティスの80%が、この企業で働き続けることを選択しました。
アプレンティスシップ制度を企業で成功させる鍵
英国ではデジタルスキルをもつ人材が不足しており、ビショップさんが働く会社も人材を獲得するのに苦労していました。また、大学に進学する余裕のない人びとにチャンスを提供する企業としての社会的責任も感じていました。自社や業界のスキルギャップを埋めながら社会的責任を果たすため、企業のCEOはアプレンティスシップ制度に投資することを決めたと言います。
CEOのアプレンティスシップへの情熱は従業員にも十分伝わっていたため、アプレンティスたちは職場で歓迎されました。ビショップさんは「上からのサポートは大切です」と語ります。「会社全体が個々のアプレンティスをサポートする意思がない場合、この制度はうまく機能しません」
それぞれのアプレンティスは、「バディ」と呼ばれる先輩社員、ラインマネージャー、メンター、および各事業部門のアプレンティスシップの代表者からサポートを受けます。また、この企業には「リバースメンター」もあり、若いアプレンティスがシニアメンバーに若者のトレンドや心配事について話す機会もあったそうです。アプレンティスは「会社に多様な視点をもたらし、新しい価値を生み出しました」とビショップさん。この企業のアプレンティスシップ制度への取り組みはさまざまな賞を受賞し、メディアでも注目されたこともあり、顧客企業からも参考にさせてほしいと相談が持ち掛けられたそうです。
その一方で、バラコさん同様、ビショップさんもアプレンティスシップに対してまだ偏見があると残念がっていました。学校へ説明に訪れたときも、生徒の親は「子どもがアプレンティスになるよりも、大学に行ってほしいと考える傾向があった」と言います。「アプレンティスシップは若者にとって、まだ標準的な選択肢ではありません。でも、人びとの考え方はパンデミックの影響で変化しており、より多くの人がアプレンティスシップの価値に気付いてきました」と彼女は語ります。
コンサルタントとして独立
ビショップさんは、勤めていたITコンサルタント企業を辞め、中小企業のアプレンティスシップ制度導入をサポートするフューチャータレント・コンサルタントとして独立しました。中小企業にとってアプレンティスシップ制度は複雑なため、ビショップさんのようなコンサルタントは重宝されると言います。彼女は、アプレンティスシップ制度がどのように機能するか、政府からどのような費用面でのサポートがあるのか説明し、どのようなアプレンティスシップが各企業に合っているかを提案します。また、企業をトレーニングプロバイダーにも紹介したり、アプレンティスの採用プロセスや採用後の見守りもおこないます。
ビショップさんはまた、キックスタートを利用したいと思う企業もサポートしています。企業がキックスタートの申請をするのを手伝ったり、キックスタートを利用した若者が6か月後に仕事を見つけられるよう支援しています。「キックスタートには、アプレンティスシップのように体系的な訓練がない」ので、「キックスタートを利用した若者の多くがアプレンティスシップ制度を利用する」よう勧めていると言います。
コロナ危機の今こそアプレンティスシップの再評価を
ビショップさんは、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響、そして上がり続ける大学の学費という現状に鑑み、「多くの人がアプレンティスシップ制度の有用性に気付くことを願っています」と言います。「このように極端な時代には、物事を違う角度から見る必要があります。より多くの若者がアプレンティスシップのapplied learning(実地訓練)の利点を理解するようになるでしょう」と期待を語りました。
最後に
日本にも、専門的な技術を学び身に付けるための職業訓練校や高等専門学校など、類似した役割を担う教育機関は存在します。しかし、英国のアプレンティスシップ制度との一番の違いは、政府の対応の規模や、大学と企業の連携したサポートと言えるでしょう。訓練を受けているあいだも仕事に対しての賃金が出ることは、若者の自立を助け、モチベーションを与えます。
リサーチやインタビューから明らかになった通り、アプレンティスシップ制度の導入にはアプレンティスを受け入れる側の理解不足や、アプレンティスに対する偏見といった課題があります。しかし、さまざまなバックグラウンドをもつ人に機会を与え、画一的ではないキャリア形成を可能にするという点では、多様性が重視される時代に合致したインクルーシブな制度として評価されるべきでしょう。
次回は、ミドル世代のスキルチェンジに力を入れる、シンガポールの事例についてご紹介します。
*1 Milkroundが実施した2020年に大学卒業予定者を対象とした調査による。(https://www.fenews.co.uk/press-releases/45779-coronavirus-impact-on-graduates-securing-jobs-just-18-of-2020-graduates-securing-jobs-compared-to-60-in-previous-years)