【インタビュー②】スキルズフューチャー利用者:ユエン・ホー・ファンさん
職業:就職活動中、多国籍投資銀行でインターン
若い世代に後れを感じ始めたとき、起こったパンデミック
54歳(インタビュー当時)のファンさんは、経験豊富なベテランのエンジニア。しかしある時期を境に、最先端のテクノロジーに関して、若い世代から後れを取っていると感じるようになりました。そこにコロナ危機が訪れます。ファンさんは今まで蓄積してきた経験と新しいスキルをうまく組み合わせることで、新しい仕事の機会を得ることができないかと考え、スキルズフューチャーを利用することにしました。
ファンさんはもともと金融系企業でソフトウェアの品質管理の仕事をしていました。ファンさんは「品質管理の経験は十分にあるものの、クラウドやAI、そしてブロックチェーンやアナリティクスの知識が自分に欠けているということには気付いていました」と言います。そこで彼が目を付けたのがフィンテック領域でした。「シンガポールでも、最近はフィンテックがはやり言葉になっていますが、以前はそれが何なのかよく知りませんでした。」しかし、ファンさんはフィンテックの可能性を知って、今までの自分の経験と新しい知識を掛け合わせることで、新しい職種の仕事に就けるのではないかと感じたそうです。
自分に足りないスキルを求めて
ファンさんが参加したのは、フィンテックの基礎を学び、またアナリティクスのスキルも身に付けることができる2か月間のプログラムでした。シンガポール政府が提供するプログラムで、シンガポールを代表する銀行やテック企業が共同で運営していたそうです。ファンさんは、「内容はかなりきつかった。夜中まで宿題をする毎日だった」と語ります。ただ、プログラム開始の時点ですでに失業していたので、濃密な2か月間のプログラムにもきちんとコミットメントできたようです。また、本来であれば約7,000シンガポールドル(約54万円)ほどかかるプログラムでしたが、90%は政府からの援助があり、残りはスキルズフューチャー・クレジットで賄うことができたため、ファンさんの金銭的負担は一切ありませんでした。
プログラム参加中、シンガポール国立大学の講師によるオンライン授業を受講し、プログラミング、コーディング、データアナリティクスを学びました。講師は全員フルタイムで働いている人たちだったことに、ファンさんは驚いたと言います。「授業中にわからないことがあるとチャットアプリでメールを送れば、すぐ返事が来て、バーチャル・オフィスに招待され、わかるまで丁寧に教えてくれたり、大学の学生を紹介してくれたりしました」
現在のファンさんと今後の展望
ファンさんは、スキルズフューチャーのプログラムを修了したあと、ある多国籍投資銀行のインターンシッププログラムに参加することが決定し、10か月間はそこでさらなるスキルアップを目指すそうです。ファンさんはこのプログラムの第4期生で、第3期までの参加者の中には、そのままこの銀行に就職した人もいるそうです。ファンさんに「その進路を望みますか」と尋ねたところ、「そうですね、それは良いシナリオです。でも他のテック企業にも私が学んだスキルと今までのスキルを生かせるポジションがある、もしくはつくることもできるのでは、と思っています」と野心的な答えが返ってきました。
ファンさんはスキルズフューチャーで得たスキルがとても役に立っていると振り返ります。そして、「生涯学び続けることを忘れてはいけません。将来を見据える先見性を身に付け、少しずつで良いので、何か新しいことを学ぶことは止めてはいけない」と語りました。
最後に
日本でも「生涯学習」はよく話題になりますが、具体的に実践している人や、それを自分のキャリア拡張のきっかけとして活用している人は、決して多数とは言えません。シンガポールでは、コロナ危機により変化を迫られたという側面もありますが、スキルズフューチャーに関するリサーチやインタビューから、新しいスキルを学習することに前向きな人びとの存在と、それを積極的に支援する政府や企業の姿勢がわかりました。
一方で、新しいスキルを磨いたとしても、年齢が上がるほど再就職が難しい、という事実も依然として存在します。ミドル世代のリスキルを促すスキルズフューチャーが、そのような壁を打破するきっかけになるのか。また、日本と同様に、シンガポールが抱える少子高齢化という社会課題をどのように解決していくのか、今後も注目していきたいと思います。
*1 SkillsFuture(https://www.skillsfuture.gov.sg/)
*2 SkillsFuture Creditについて。(https://www.skillsfuture.gov.sg/credit)
*3 「SkillsFuture Annual Report 2019/2020」より。(https://www.ssg-wsg.gov.sg/content/dam/ssg-wsg/ssgwsg/about/annual-reports/ssg-ar-2019-(final).pdf)