電通総研

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NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子氏
子どもが希望を持てる社会をつくるには?
1989年11月20日に採択されたユニセフの「子どもの権利条約」※1には、「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」がうたわれています。
2019年末に始まった新型コロナウイルス感染症拡大により、困窮家庭の状況が悪化※2しています。食べるものがない、電気が止められるなど「生きる権利」まで脅かされかねない状況への支援も急がなければならないのですが、勉強する・運動する・遊ぶといった「育つ」「参加する」権利が後回しになっていないかが懸念されています。

「すべての子どもが夢や希望を持てる社会の実現」をビジョンとして活動されているNPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子さんに、厳しさを増す子どもの貧困問題の実態や、貧困の連鎖を断ち切るためのアクションについて、お話を伺いました。

※1 ユニセフ子どもの権利条約より
https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig.html
※2 コロナで困窮する子どもたちを救おう!
https://note.com/yumikowatanabe/n/n0bb7dab7cd31

聞き手:木村亜希 
2021.05.31

# 子ども

# 次世代

# 教育

# 社会関係資本

# 文化資本

# 学習支援

# 居場所づくり

# SSX

# QoSフォーラム


INDEX

見えない貧困について知ってください

活動を通じて渡辺さんの目に映る、日本の現状をお聞かせください。

驚かれる方も多いのですが、日本の子ども(17歳以下)の貧困率※3は13.5%(2018年)で、およそ7人に1人の子どもが貧困状態にあります。

この数値はOECD(経済協力開発機構)平均の13.1%※4を上回っています。

日本社会は同質性を求める傾向があるので、例えば洋服がボロボロだとそもそも学校に行きにくくなってしまうから、身なりはみんなきれいです。ただその陰で、家のご飯のおかずはもやしばっかりといった状況なので、勉強に必要な参考書や問題集までは買えない。昨年はずいぶん文房具を配ったのですが、「ノートを買えなかったので助かります」という声がたくさんありました。一見そんなふうに困っていらっしゃるようには見えません。見た目では全くわからないんです。

キッズドアは2009年にNPO法人化したのですが、厚生労働省が正式に子どもの相対的貧困率を発表したのも2009年です。それまでは「一億総中流」で、日本には貧困はないと考えられていたのです。2009年以降子どもの貧困率が高いことがわかり、今、政府をはじめいろいろな組織や団体がこの問題に取り組んでいるところです。

※3 ここで言う貧困率とは、一定基準を下回る等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)しか得ていない者の割合を指す。子どもの貧困率は、その子どもが属している世帯の等価可処分所得をもとに計算する。世界銀行による「1日1.90ドル未満で暮らす人の比率」などを用いて測る「絶対的貧困」とは異なり相対的なものである。
厚生労働省の国民生活基礎調査「相対的貧困率等に関する調査分析結果について https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/soshiki/toukei/dl/tp151218-01_1.pdf
国民生活基礎調査 相対的貧困率の算出方法 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21a-01.pdf
THE WORLD BANK 国際貧困ライン、2015年10月以降は1.90ドルに改定 https://www.worldbank.org/ja/country/japan/brief/global-poverty-line-faq

※4 OECDレポートより https://www.oecd.org/els/CO_2_2_Child_Poverty.pdf

いちばん働いているのにいちばん貧しい。日本のひとり親家庭

日本の貧困の特徴として、ひとり親世帯が多いことが挙げられます。多くは母子家庭なのですが、「ひとり親家庭の貧困率」はとても高くOECD加盟34か国中でも日本が1位と最悪の数字です※5。 子どもの貧困というと、「親御さんの自己責任」「頑張って働けばよいのでは」と思われがちなのですが、ひとり親世帯の就労率は8割以上とOECD加盟国の中で一番高くなっています※6。働いていれば貧困率は下がるはずなんですが、日本ではそうなっていない。社会システムがつくりだしている、日本独特の課題であるということが言えるのです。

日本独特の課題とはどのようなことでしょうか。



これには女性の労働環境が大きく影響しています。日本では長らく、女性が子どもを産む時にいったん退職して子どもが大きくなってから復職するという働き方が主流でしたが、復職する時は正社員ではなく、パートなどの賃金の低い非正規雇用の仕事に就くことが多かった。離婚等の理由で自分が主たる生計者にならなければならない場合でも、正社員になるのは難しい。頑張れば正社員にと言っても、家庭内に小さい子どもがいたり、障がいやご病気を抱える方がいたり、ご両親の介護があったり、女性が家族のケアの担い手でもあるために、働きたくても十分に働けない事情もいろいろあります。

日本は子育てや教育にかかる保護者の金銭的負担が大きい国です。私はイギリスで1年間子育てをした経験があるのですが、イギリスでは説明の聞き間違いかしらと驚くほど、子どもの教育にほとんどお金がかかりませんでした。学校で使うものはすべて無料、服や通学バッグも学校が一応指定したものに似たものであればよかった。日本では何万円もするランドセルに、給食費、部活動の費用、教科書以外の学用品(教材、体操服、水着、楽器など)の費用も家庭の負担です。完全に無料なのは公立学校の校舎の使用料と教科書を使って先生に教えてもらうことくらいでしょう。
他の先進国に比べ日本が教育に使っている税金は非常に少なく、GDPに占める学校等教育機関への公的支出の割合は3.2%で37か国中36位※7。税金で賄われる部分が少ないので、足りない分は保護者が負担することになります。親御さんの収入が少ないと十分な教育が受けられず、進学や就職で不利になって、努力はしても収入が高い職、安定した職に就くことができない。「貧困の連鎖」が生まれやすくなっています。

税金の再配分について、子育て中の家庭にばかり手厚い支援があるのは不公平というご意見もあるでしょう。しかし国の予算をみると、例えば令和3年(2021年)度一般会計予算の社会保障関係費の内訳は年金、医療、介護で8割以上※8。平成29年所得再分配調査報告書によると、高齢者世帯が年間約265万円再配分されているのに対し、母子世帯は保育園や学校教育などの「現物給付」を合わせても年間約48万円しか再配分されていません※9

2018年に書いた『子どもの貧困』という本の最後に、子どもの貧困対策は「福祉」ではなく「将来への投資」ということを書きました。一人の高校生が、高校を中退してフリーターになったとして年収は良くて200万円くらいでしょうか。この収入では結婚も子どもを持つことも諦めてしまうかもしれません。大学まで出て働き、平均的な大卒の生涯年収を稼いで税金や年金・保険料をちゃんと納めてくれるような大人になるとしたら、トータルでは税金の節約になりますよ※10、という説明の仕方もアリかなと思います。
※5 OECDのFamily Databaseによる https://www.oecd.org/els/family/database.htm

※6 内閣府 第3章 日本の子供の貧困に関する先行研究の収集・評価(2.2.(9)) https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/chousa/h28_kaihatsu/3_02_2_9.html

※7 Education at a Glance 2020による https://www.oecd.org/education/education-at-a-glance-19991487.htm/?refcode=20190209ig

※8 令和3年度厚生労働省予算案の全体像 https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/21syokanyosan/dl/01-03.pdf

※9 平成29年 所得再分配調査報告書 厚生労働省政策統括官 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/96-1/h29hou.pdf

※10 日本財団の試算によれば、15歳の1学年だけをとっても経済的損失は約2.9兆円、政府の財政負担は約1.1兆円の増加、計約4兆円が失われるとする https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/information/2015/20151221-21715.html

「頑張れば何とか」ならない理由

保護者の収入で子どもの学力が左右されてしまうということもわかっています。グラフは中学3年生のテストの結果ですが、世帯年収と子どもの学力が明確に紐づいてしまっています。

世帯収入と子どもの学力(中学3年生)
(出典)平成29年度「学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究(国立大学法人お茶の水女子大学) https://www.nier.go.jp/17chousa/pdf/17hogosha_factorial_experiment.pdf

最近は受験も情報戦になっていますから、良い塾に行かせられるかどうかといった話もあるのですが、それ以前の問題も大きいと思います。
1つ目は「住環境」です。2020年に始めた「キッズドアファミリーサポート」には、コロナ禍で困窮した日本全国の子育て中のご家庭からご登録をいただいているのですが、年収200万円以下のご家庭がほぼ半数です。年収200万円以下だと月に使えるお金は14~15万円しかない。そのなかから、例えば2Kのアパートの家賃を払って親と子ども2人とかで住んでいるので、当然子ども部屋はなく、勉強机もないですよというお子さんがたくさんいらっしゃいます。キッズドアの無料学習会でも、「家では布団の上にお盆を置いて参考書を広げ、ヘッドホンをして勉強している」「家にはノートを広げる場所がない。学習会に来るとノートを広げられるから嬉しい」というお子さんもいるんです。

2つ目は「時間の貧困」という側面です。親御さんの多くが正社員ではなく、ダブルワーク、トリプルワークのパートで働いていらっしゃる。昼間にひとつ仕事に行って、夕方急いで帰ってきて、子どもにご飯を食べさせ、また二つ目の仕事に行く。結局、家で勉強を見てあげるということはできないわけです。
そうすると、「分数ちょっとわかんないな」となっても身近に誰も聞く人がいないので、できないまま中学生になってしまう。私もこの仕事をするまでは、九九ができない中学生って特別で、そんな子いないでしょう? と思っていたんですが、じつは結構いるんです。二の段、三の段はできるけれども、七の段、八の段になるとあやしい。言えるようになるまで何度も聞いてもらうとか、できたら一緒に喜んでくれるとか、家族にそういうことをやってもらっていないということが低学力につながっています。

家庭学習を見る人がいないと、人の話を聞く、わかるまでじっくり考えるといった姿勢、「勉強の仕方」「学び方」が身に付きにくい、ということもあるのではないでしょうか。



家庭学習を1日30分以下しかしない高所得世帯(年収1,000万円以上)の子どもと、120分以上している低所得世帯(年収500万円未満)の子どもの算数の平均点を比べたところ、55.9点と45.3点で、勉強時間が短い高所得世帯の子どものほうが10点以上高い※11という研究結果もあります。時間の問題に加えて、親御さん自身が勉強に苦手意識があって教えられなかったり、外国の方で日本語がわからなかったり、という場合もあります。住環境や家庭の文化資本の差といった、自分ではどうしようもないスタートラインの不平等が埋めがたい差になっている可能性があります。

3つ目は「教育への投資ができない」こと。参考書や問題集、そして高校生の場合、模試や大学の受験料。そこに回すお金がないのです。
昨年キッズドアでは「受験勉強サポート奨学金」をクラウドファンディングで立ち上げ、高校3年生に5万円、高校2年生に3万円渡しました。奨学金受給者のアンケートでも「受験する大学を減らした」「予備校・塾に通えなかった」「進学を諦めようと考えたことがある」というお子さんが4割以上。受験料は大学入学共通テストが1万8,000円(2教科以下の場合は1万2,000円)、一般的な私立大学なら1校約3万5,000円ですから、3校受ければ10 万円を超えますし、手数料や受験会場までの交通費もかかる。そんなお金はないから受験する大学を1校だけにしたというケースや、一般受験をしたかったけれど、指定校推薦に変えましたというケースも多いです。
正直、5万円でも足りないと思います。でも「この5万円があったから受験できた」という声がたくさんありました。本当に困っている中での5万円ってすごく大きい。5万円というお金がその子の未来をつくったんです。一生に一度の受験でしょう、それくらい親御さんなら出せるのではないかと思われるかもしれないのですが、さまざまな事情でそれができないご家庭がある。その「困り具合」がうまく伝わらないなと思っているんです。ちょっとの支援で大きく人生が変わる。そういうメッセージをもっともっと広げていければなと思っています。


※11 家庭学習時間別に見た世帯所得と学力の関係 耳塚寛明「教育格差を考える:だれが学力を獲得しているのか?(お茶の水地理学会講演会要旨)」 『お茶の水地理』vol.53, 2014年より

「経済資本+文化資本+社会関係資本」が貧困の連鎖を断ち切る

私たちキッズドアは「貧困の連鎖」の中の、「十分な教育を受けられない」というところを変えるために、無料で勉強を教え、学習の機会を与える活動をしています。
2019年のデータですが、キッズドアが支援した生徒さんが2,000人弱。中学生が1,116人(約57%)で、「高校生世代(高校生と、高校を中退した方、高校に行ってない方)」が654人(約34%)。低所得のご家庭のお子さんたちを放っておくと高校を中退してしまうことが多いということがわかって、その支援に力を入れています。また小学生も190人(約10%)ということで、最近は増えてきました。

ボランティアの人数は1,048人(2021年4月現在)。塾の講師のような「先生」というタイプではなくて、横で寄り添いながら教える。勉強が苦手というお子さんが多いですし、進度もばらばらなので、ひとりひとりに個別に教えていくというスタイルです。最近はシニアの方もずいぶんボランティアに来ていただけるようになりまして、小学生相手にやさしく教えてくれるなど、そういう様子も増えてきています。
東京に団体がありますので、活動エリアとしては東京と千葉と埼玉です。また東日本大震災の後で東北の支援というのを随分やらせていただいたので、今も仙台に事務所を置いて学習会を開催し、南三陸町でも支援をしております。最近は、対面とともにオンラインでの支援も行っております。NPOだけでできることは限られるので、さまざまな団体(14団体)・企業(200企業)にご協力いただいて活動をしています。
昨年はコロナの影響もあり、学習支援とは別に子育て家庭を支えなければということで、福島の農業系NPO法人さんにご協力いただいて、春や夏に美味しい野菜やお米を送ったり、年末年始にはクラウドファンディングをして970世帯にお餅・お蕎麦・野菜などを送ったりしました。また、企業にご支援いただいて1,700人ぐらいの子どもにクリスマスプレゼントを送ったりという活動も行いました。

貧困家庭のお子さんは、学習のための支援が足りていないことに加えて、例えば家族旅行に行くだとか、自分のお誕生日をお祝いしてもらうとか、そういった体験をしていないことも多いです。そこでいろいろな経験をしてもらおうと、各学習会でクリスマスパーティーを開いたり、企業の方にご協力いただいてアート教室を開いたり、バーベキューパーティーを開いたり。高校受験を頑張った生徒を2泊3日の小旅行にバスで連れていき、海と山の自然の中でさまざまな活動を経験させるといったこともしています。
去年はできなかったのですが、企業の方に協力していただいて職場見学に連れていくこともあります。家で親御さんと一緒に料理をつくることがなかったりするので、調理体験をするだとか、プランターで野菜を育てるとか、そういったことを補うという活動もしています。
青山学院大学の耳塚寛明先生※12は、学力形成には、経済資本と文化資本と社会関係資本が必要ということをおっしゃっています。貧困というとどうしても経済資本の面だけに目がいって、支援というと「塾の費用を出す」「ご飯を食べさせる」で終わりがちなのですが、それだけでは貧困の連鎖は断ち切れない。

文化資本、これは何かというと、「教育って大事だよ」という考え方の人がそばにいるとか、「本を読むって大切だよ」と本を置いておくとか、いろんなところに連れて行っていろんな体験をさせるとか…そういったまわりの環境や経験のことです。文化資本を積み上げて育てないと自立につながらないということです。「勉強しなさい」と追い立てられる子どもも大変かもしれませんが、誰ひとり「勉強しなさい」と言ってくれない環境もまた過酷です。

そして社会関係資本と言っているのは、良い人的ネットワークに組み込まれることです。母子家庭で、お母さんはずっとパートで働いていますという子どもは、ちゃんと話をしたことがある大人はと聞くと、「お母さん…と時々学校の先生だけ」といった範囲に限定されてしまいがちです。そうすると、言葉づかいや「約束を守る」といった基本的なコミュニケーション能力も身に付きづらくなります。将来を考えるにしても、社会の中にはどんな仕事をしている人がいて、それぞれの仕事にはどういう特徴や魅力があってといった情報が伝わりづらい。私たちの学習会に来る子でも、「大人になりたくない」「仕事をしたくない」と言う中学生が多い。ボランティアの大学生に会って「『大学生』ってほんとにいるんだ」とつぶやいたお子さんもいます。まわりに大学生や大学に行った人という知り合いが一人もいなければ、進学へのイメージもわかないでしょう。ご両親や親戚も大学を出ていて、留学したり大学院に進んだりというのも普通という世界は、貧困家庭に育つ子どもたちの情報空間からは想像がつかない。だからこそ、さまざまなボランティアの方が来てくださって、相互にやりとりし、良い人的ネットワークを補うことがとても重要だなと思っています。

※12 耳塚寛明 青山学院大学コミュニティ人間科学部コミュニティ人間科学科 学部特任教授。日本教育社会学会元会長、長野県教育委員。専門は教育社会学(学力の社会学、教育政策、学校組織など)。

進学だけがすべてと言いたいわけではありませんが

キッズドアの勉強会では学習習慣を身に付けてもらい、さらに学力の向上も目指しています。成績が上がった、「できた!」という喜びは、子どもたちの自己肯定感を育みます。
また「高校に行きなさい」「大学に行きなさい」と口を酸っぱくして言っているので誤解されがちなのですが、私たちは高等教育を受けることや学歴がすべてと言いたいわけでは決してありません。中卒や高卒でも、腕の良い職人になる、農業や漁業を継ぐ、起業するなどで立派に働いていらっしゃる方もいます。しかし、今の日本では進学したほうが経済的に自立できる確率が高まりますし、大学や専門学校に行かなければ、なることができない職業もたくさんあります。
私が言いたいのは、「進学したい気持ち」がある子どもの希望は叶えてあげるべきだということです。少子化が進み※13、子どもたちひとりひとり全員が貴重な存在であるにも関わらず、若いうちからあまり大事にされていないことが不思議です。社会から冷たくされて育った子どもが、大人になって「子育てしたい」と思うのでしょうか。私たちがつくってきた社会の中で、そんな悲しい思いをさせちゃいけないと思うのです。

「本人が進学したいと言っていない」としても、いろいろな選択肢を持った上で、積極的な理由がある場合ならともかく、保護者に負担をかけたくないという理由や、進学した先の未来に希望が持てないという理由で勉強をやめてしまう場合、それは「進学したいと言わなかった」子どもの自己責任と言えるのか、ということも感じます。



「勉強が嫌いなら無理して進学しなくていいんじゃないの」というご意見もよくいただきます。とある教育関係の方から「無理やり勉強させて高校にいかせなくても、だったら農業があるよ、八百屋さんとか、そば屋さんとか、そういう道で生きていくっていう方法もありますよね」という言葉を聞いて仰天したことがあります。農業も漁業も商売も、何十年もやってきたその道のプロであっても、語学力、経営能力、交渉力、マーケティング力などがなければ生き残っていけない時代です。高校入学もおぼつかない基礎学力で入っていって、一生やっていけるでしょうか。アルバイトのような仕事ならあるかもしれませんが、そんな不安定な生活を中学生の時点で選ばせるというのは大人としてあまりに無責任です。
※13 総務省が2021年5月5日の「こどもの日」に公表した15歳未満の子どもの推計人口(4月1日現在)は、2020年より19万人少ない1,493万人で、1982年から40年連続の減少となり、比較可能な1950年以降で過去最少を更新。 https://www.stat.go.jp/data/jinsui/topics/topi1280.html

「子どもに冷たい国・日本」を社会全体で解決する

同僚に、韓国とベトナムを経て日本に来たお母さんがいるのですが、日本に来て一番驚いたのが、子ども食堂※14が民間主導で運営されているということだったそうです。なぜならベトナムも韓国も、子どもの基本的な生活は国が責任をもって見るべきだという認識があるから。NPOや企業団体での支援も重要なのですが、あくまでもそれはサブ的な位置づけだそうです。韓国では、小・中学校は基本的に全面無償給食。給食の1食プラス、貧困だという基準に認定された家庭の子どもたちには、「子ども給食カード」という電子カード※15が支給されて、(地域によって差はありますが)ソウル市基準で一食500円ぐらいの食事をコンビニエンスストアやレストランで食べることができます※16。それで栄養のバランスがちゃんと取れているのかということもかなり議論されているし※17、政治家も「児童・青少年の福祉改善政策」を選挙公約にするそうです※18



イギリスでは子どもをベビーカーに乗せて歩いていて嫌な思いをしたことがありませんでした。電車に乗ろうとすれば、一番最初に道をあけて乗せてくれていた。ところが日本は一番最後まで待たなきゃ乗れない。本当に子育てしづらい社会になっているのを何とかしたいというのが私の活動の原点です。
その原因はジェンダーの問題がすごく大きくて、多分これほど男性が子育てから離れている国はない。ずっと「子どもの問題」≒「女性の問題」と思われていたために、社会の最前線ではない印象があり、優先度が低くなってしまう。
子どもの困り事をお母さんだけに任せるのではなく、社会全体で解決してあげるというふうになっていくと、大分変わるかなと思うんですけど、そこにどう持っていくかなと考えているところです。
※14 地域住民やNPO等による民間発の取組として無料または安価で栄養のある食事や共食の機会を提供する。その形態はさまざまであり、コミュニティの中での居場所の提供などの意義が認められるものも多い。
農林水産省 子供食堂と連携した地域における食育の推進 https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomosyokudo.html

※15 「子ども給食カード」 https://www.gov.kr/portal/service/serviceInfo/SD0000000169

※16 ソウル市 女性家族政策室 家族担当 子供給食支援策 https://yesan.seoul.go.kr/wk/wkSelect.do?itemId=104452&tr_code=sweb

※17 ソウル市 女性家族政策室 報道資料 ‘児童給食カードの使用所、約13万店の食堂に拡大 栄養不均衡の解消’https://news.seoul.go.kr/welfare/archives/531629?tr_code=sweb

※18 大統領選挙 ムン・ジェイン氏 公約8.子育てしやすい大韓民国 ‘大韓民国の子ども育成、教育·育児国家責任制が正解です’  済州道知事選挙 ウォン·ヒリョン氏 公約4. ‘小中高学習費支援’、‘無償保育園制‘、’24時間緊急子どもケーアセンター設立’ http://policy.nec.go.kr/

支援の情報を必要な人に伝える

特にデジタルメディアではそれぞれが自分のまわりの狭い範囲の情報に触れることが多く、情報空間が分断されているということがあると思うのですが、支援活動をされているなかで感じていらっしゃることはありますか。



日本語の読解力が落ちているということがあります。若い人たちは、映像、絵文字、スタンプなどの感情表現はできるけれども、文章を書きなさいといったらすごく弱い。政府の方と話をするときも、もう少しやさしい言葉を選んでください、とお願いしたりしています。例えば文部科学省さんの給付型の奨学金は、とても良い内容なのに「高等教育の修学支援新制度」と言うと、それを必要とする家庭の人たちに届きにくいということがあります。
「皆さんのための支援です」という情報を、支援を必要とする人たちにわかりやすく届けていただくことも重要だと思います。

奨学金は子どもの未来を変えられる

貧困の連鎖
10年活動してきてやっと、キッズドアの学習会に参加して卒業していった子はどうなっているかという後追い調査をすることができました。2018年以前の卒業生では77.8%、約8割は大学に行っています。2019年、現役の高校3年生と浪人生に聞いたアンケートでも、約5割(48.4%)は大学に進学予定、短大・専門学校も加えるとほぼ普通の子と変わらない進学実績で、希望をもって高等教育に進むことができている※19。正社員として働いているという子もいます。進路未定の子はほとんどいません。貧困の連鎖を断ち切っているのです。

そうして、「すべての子どもが夢や希望を持てる社会」を目指していくということですね。



でもそれは裏を返すと、一見恵まれているように見える日本の子どもたちの中に夢や希望をかなえる前に「夢や希望を持つということすら難しいお子さんがいる」ということなのです。どんな親御さんのもとに生まれても、自分の将来に夢や希望を持てるような社会をつくっていかなければと思っています。

私たちは今年も「受験サポート奨学金」を届けたいと思っています。大学に「入ってから」の奨学金の選択肢は増えてきているのですが、高校生のための支援が空白地帯になっています。今年の大学受験生が進学できるかは、いま、今年支援があるかどうかで決まり、その影響は生涯を通じて長く続きます。趣旨にご賛同いただける方は、ご協力いただければ幸いです。

(6月1日追記:クラウドファンディングによる「キッズドア基金|大学進学をあきらめない!2021受験サポート奨学金」は寄付総額10,032,000円のご協力をいただき終了いたしました)

NPO法人キッズドア基金では通年でご寄付を受け付けています。
認定NPO法人キッズドア基金へのリンク
※19 NPO法人キッズドア『高校生支援の調査研究報告書~子どもの貧困対策 無料学習支援・生活支援事業の卒業生の後追い調査~』より)

最後に

今までは子ども・子育てというと、どうしても家庭でやるものだ、学校に任せるものだという印象がありました。しかし今は、地域も企業もNPOも、いろいろな関係者が一緒になって子どもたちを育てていかないといけない時代です。ぜひ皆さんも、子どもや子育て家庭のことを考えてみていただければと思います。

 

Text by 木村亜希



渡辺由美子 わたなべ・ゆみこ

NPO法人キッズドア理事長

千葉大学卒。大手百貨店などを経て、2009年NPO法人キッズドア設立。内閣府 子供の貧困対策に関する有識者会議 構成員。厚生労働省 社会保障審議会・生活困窮者自立支援及び生活保護部会委員。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会 副代表理事。著書『子どもの貧困~未来へつなぐためにできること~』(水曜社)

千葉大学卒。大手百貨店などを経て、2009年NPO法人キッズドア設立。内閣府 子供の貧困対策に関する有識者会議 構成員。厚生労働省 社会保障審議会・生活困窮者自立支援及び生活保護部会委員。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会 副代表理事。著書『子どもの貧困~未来へつなぐためにできること~』(水曜社)

木村亜希 きむら・あき

電通総研プロデューサー

東京都生まれ千葉県育ち。東京大学文学部歴史文化学科日本史学専修課程卒。TCC(東京コピーライターズクラブ)会員。2005年より電通、2020年2月より電通総研。主な研究テーマは次世代の教育と地域。

東京都生まれ千葉県育ち。東京大学文学部歴史文化学科日本史学専修課程卒。TCC(東京コピーライターズクラブ)会員。2005年より電通、2020年2月より電通総研。主な研究テーマは次世代の教育と地域。