「頑張れば何とか」ならない理由
保護者の収入で子どもの学力が左右されてしまうということもわかっています。グラフは中学3年生のテストの結果ですが、世帯年収と子どもの学力が明確に紐づいてしまっています。
(出典)平成29年度「学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究(国立大学法人お茶の水女子大学)
https://www.nier.go.jp/17chousa/pdf/17hogosha_factorial_experiment.pdf
最近は受験も情報戦になっていますから、良い塾に行かせられるかどうかといった話もあるのですが、それ以前の問題も大きいと思います。
1つ目は「住環境」です。2020年に始めた「キッズドアファミリーサポート」には、コロナ禍で困窮した日本全国の子育て中のご家庭からご登録をいただいているのですが、年収200万円以下のご家庭がほぼ半数です。年収200万円以下だと月に使えるお金は14~15万円しかない。そのなかから、例えば2Kのアパートの家賃を払って親と子ども2人とかで住んでいるので、当然子ども部屋はなく、勉強机もないですよというお子さんがたくさんいらっしゃいます。キッズドアの無料学習会でも、「家では布団の上にお盆を置いて参考書を広げ、ヘッドホンをして勉強している」「家にはノートを広げる場所がない。学習会に来るとノートを広げられるから嬉しい」というお子さんもいるんです。
2つ目は「時間の貧困」という側面です。親御さんの多くが正社員ではなく、ダブルワーク、トリプルワークのパートで働いていらっしゃる。昼間にひとつ仕事に行って、夕方急いで帰ってきて、子どもにご飯を食べさせ、また二つ目の仕事に行く。結局、家で勉強を見てあげるということはできないわけです。
そうすると、「分数ちょっとわかんないな」となっても身近に誰も聞く人がいないので、できないまま中学生になってしまう。私もこの仕事をするまでは、九九ができない中学生って特別で、そんな子いないでしょう? と思っていたんですが、じつは結構いるんです。二の段、三の段はできるけれども、七の段、八の段になるとあやしい。言えるようになるまで何度も聞いてもらうとか、できたら一緒に喜んでくれるとか、家族にそういうことをやってもらっていないということが低学力につながっています。
家庭学習を見る人がいないと、人の話を聞く、わかるまでじっくり考えるといった姿勢、「勉強の仕方」「学び方」が身に付きにくい、ということもあるのではないでしょうか。
家庭学習を1日30分以下しかしない高所得世帯(年収1,000万円以上)の子どもと、120分以上している低所得世帯(年収500万円未満)の子どもの算数の平均点を比べたところ、55.9点と45.3点で、勉強時間が短い高所得世帯の子どものほうが10点以上高い
※11という研究結果もあります。時間の問題に加えて、親御さん自身が勉強に苦手意識があって教えられなかったり、外国の方で日本語がわからなかったり、という場合もあります。住環境や家庭の文化資本の差といった、自分ではどうしようもないスタートラインの不平等が埋めがたい差になっている可能性があります。
3つ目は「教育への投資ができない」こと。参考書や問題集、そして高校生の場合、模試や大学の受験料。そこに回すお金がないのです。
昨年キッズドアでは「受験勉強サポート奨学金」をクラウドファンディングで立ち上げ、高校3年生に5万円、高校2年生に3万円渡しました。奨学金受給者のアンケートでも「受験する大学を減らした」「予備校・塾に通えなかった」「進学を諦めようと考えたことがある」というお子さんが4割以上。受験料は大学入学共通テストが1万8,000円(2教科以下の場合は1万2,000円)、一般的な私立大学なら1校約3万5,000円ですから、3校受ければ10 万円を超えますし、手数料や受験会場までの交通費もかかる。そんなお金はないから受験する大学を1校だけにしたというケースや、一般受験をしたかったけれど、指定校推薦に変えましたというケースも多いです。
正直、5万円でも足りないと思います。でも「この5万円があったから受験できた」という声がたくさんありました。本当に困っている中での5万円ってすごく大きい。5万円というお金がその子の未来をつくったんです。一生に一度の受験でしょう、それくらい親御さんなら出せるのではないかと思われるかもしれないのですが、さまざまな事情でそれができないご家庭がある。その「困り具合」がうまく伝わらないなと思っているんです。ちょっとの支援で大きく人生が変わる。そういうメッセージをもっともっと広げていければなと思っています。
厚生労働省の国民生活基礎調査「相対的貧困率等に関する調査分析結果について https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/soshiki/toukei/dl/tp151218-01_1.pdf
国民生活基礎調査 相対的貧困率の算出方法 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21a-01.pdf
THE WORLD BANK 国際貧困ライン、2015年10月以降は1.90ドルに改定 https://www.worldbank.org/ja/country/japan/brief/global-poverty-line-faq
※4 OECDレポートより https://www.oecd.org/els/CO_2_2_Child_Poverty.pdf