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「次世代に、希望をつなごう」海外事例リサーチ
「育児のこれから」のヒントの宝庫。ノルウェーの仕事と家族のありかた

日本では育児介護休業法(育休法)の改正により、今後、男性の家事・育児についての事象が注目される機会が多くなると予想されます。そんな日本のヒントになりそうなのが、高福祉高負担型の「大きな政府」を基盤に、ジェンダーの平等も進んでいるノルウェー。ノルウェーにおける「仕事のかたち」「家族のかたち」の両面について、日本との比較も交えてレポートします。

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男性の育休取得率約75%、平均期間3か月半 のノルウェーの育休

日本でも活発な議論が進み始めた男性の育児休業について、ノルウェーの状況を見てみます。父親も取得可能な育休制度は1977年に始まりましたが、当初は利用率が低迷。1993年に父親のみが取れる4週間の「パパ・クオータ」(クオータとは「割り当て」という意味)が明確に規定されて以降、男性の制度利用に弾みがつきました。ノルウェーにおいては「パパ・クオータを何日に設定するか」というのは注目を集める政策論点であり、政府が決めたパパ・クオータ期間に応じて、実際に男性たちが取る育休が長くなったり短くなったりします。パパ・クオータは現在15週まで増え、男性の育休の平均期間は土日を含めると3か月半にも及びます。 図1は2009年以降に子が生まれた父親のうち、子どもが生まれてから3年以内に育休を取得した人の割合です。近年のノルウェーでの育休取得率は75%前後となっています。

一方、日本の男性の育休取得の現状を見てみましょう。厚生労働省の雇用均等基本調査によると、2020年度の男性の育休取得率は12.65%で、これは前年度の7.48%を大きく上回りました。首相官邸におかれた検討会議が採択した「全世代型社会保障改革の方針」を受けて、改正育児・介護休業法が2021年6月に国会で成立(2022年4月1日施行)。男性の育休についても個別の労働者に対する制度の周知、研修・相談窓口の設置などの職場環境の整備について、事業主への義務づけがなされました。ノルウェーの約75%に遥か及ばないとはいえ、法改正やパンデミックをきっかけとした人びとの意識の変化が後押しとなり、今後日本でも男性の育休取得率が伸びていくことが期待されます。「取得したか取得しなかったか」から、「何日取得したか」という論点に日本も移行していくかもしれません。

取らなきゃ損⁉ 給与額100%補填(ほてん)期間が両親合わせて49週

ノルウェーの育休制度(母親の場合は産休・育休)は、同一の制度の枠内で母親と父親とが休暇を分け合う形で規定されています。給与額100%補填の期間が二人合わせて49週あり、80%補填だと59週になります。100%補填の49週で取得する場合、出産前の3週と出産直後の6週、産前・産後どちらでとってもよい9週を合わせた18週は母親だけに権利がある取得期間(ママ・クオータ)、また15週は父親だけに権利がある取得期間(パパ・クオータ)となります。残りの16週は父親と母親のどちらがとってもよいことになっています。

育休の取得は法的義務ではありません。パパ・クオータもママ・クオータも、出産から3年以内に取ることができますが、利用しなければ一部の例外を除いて権利が消滅します。また、父母どちらも働いており、一定期間以上の就労期間があるなどの諸条件を満たしている場合に限られています。たとえば母親が主婦であり今後も就業意思がない家庭の場合、父親は育休の給与補填は受けられません。 子どものいる同性カップルの場合も、二人の親にほぼ同様の育休機会が与えられます。養子の場合、3歳未満の子どもの世話を開始する日から育休を取得できますが、「出産前3週間」の該当部分は消滅します。

ノルウェー企業で働く労務エキスパート、倉島さんインタビュー

倉島理恵子 Rieko Kurashima Godøy
1971年、長野県生まれ。アメリカの南イリノイ大学でスピーチ・コミュニケーションを専攻。アメリカと日本の企業での勤務経験の後、ノルウェー人男性と結婚。1996年にノルウェー・オスロに移住。会計業務アウトソーシングを手掛ける北欧の大手企業で労務・給与関連の業務を担当するかたわら、行政の委託で移民向け社会講座の講師も務める。2人のお子さんの母でもある。

現状の育休制度の運用がどうなっているのか、実際のノルウェー人の働き方とはどのようなものなのかを知るために、在オスロのノルウェー企業にて、労務エキスパートとして働く日本人、倉島理恵子さんにお話を伺いました。

インタビュアー:沓掛俊哉

企業における育休制度運用の実態とノルウェー人のワーク・ライフバランス

ノルウェーは他の北欧諸国と同様、ジェンダー平等を実現している国であることは、自他ともに認めるところで、世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表しているジェンダー・ギャップ指数2021ではノルウェーは156か国中3位、日本は120位でした。倉島さんはオスロで10年以上、仕事と家庭を両立されていますが、ご自身の実感としてもそう思われますか。

はい。2人の男の子を育てながら、給与計算をはじめ、会計や人事の仕事をフルタイムでこなしてきました。夫はノルウェー人で歴史家です。家事分担は半々で、私が料理して夫は買い物や子どもの送り迎えをしています。ノルウェーが女性にとって働きやすいことはわかっていますが、思い返すととにかく忙しかった!

倉島さんは企業の労務面をつぶさに見てきたわけですが、ノルウェーの職場におけるジェンダー平等に関する実態を、どのように見ていますか?

ノルウェーの職場では、女性も男性と同様、専門性を武器に性別に関係なくチャレンジできる仕事環境が確立されています。その基礎を培う高等教育に関しては、女性の進学率が男性の進学率を完全に上回った状況です。賃金格差問題は存在しますが、男女の平均賃金の差は日本では22.5%、ノルウェーでは4.8%です(2020年、OECDデータ)。ジェンダーギャップが縮まることに文句を言うノルウェー女性はいないでしょう。ですが、多くの人がしんどいと思っているのは見ていて感じます。

それはどういうことでしょう。

女性にフルタイムで働く道が開かれると、仕事にやりがいを感じますし、もしパートタイムに戻ったら今の収入も将来の年金も減ってしまう。仕事量を縮小するのは難しい決断になります。家のローンもあるし、車もテスラに買い替えたい(笑)。バカンスにも行きたい。結局仕事に全力を傾けざるを得ない。そうした上で子育ても、となると、男性側の協力レベルに女性側が不満を感じるケースがなお多く見られます。

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育休後は「同じポジションに戻さなければいけない」と法律で決まっている

「父親の家事参加」を促すため、ノルウェーの父親の育休は取得期間が長い上に取得対象も広いことで世界的に知られています。父親は育休を取らないと権利が消えてしまうので取得率も高いようですが、本人のキャリアは中断しませんか?

平等・差別禁止法(第33章)という法律があって、父親が育休で職場を一時期空けた場合でも、とにかく会社は同じ地位と待遇に戻すことが法で定められています。

しかし組織改編や事業再編などで席がなくなるということもあるのでは…

私の前の会社がリストラの激しいところでした。本人不在の間に会社が彼のポジションを実質なくしたケースがありましたが、彼が戻った時点で、一旦、以前と同格の扱いに置きました。もっとも、それから解雇へ向けた話し合いが始まりましたが。

そういうことが起こった場合に、育休を取ったことを後悔しなければいいですが。

もし正当な育休を取ったことで不条理な扱いを受けたと思えば、労働組合の強い国ですので、組合に相談すればアドバイザーや弁護士などの支援を得て十分に闘えます。

とはいえ、本人不在の間の業務は誰かが担わないといけません。

ふつうは、その人の育休期間とほぼ同じ期間で公示・採用される一時雇用スタッフ(Vikarと呼ばれる、日本で言う正社員型派遣に近いワーカー形態)が穴埋めします。引継ぎは必ずしも対面で行えません。同じ職場に残る人が一時的に引き継いで、後で一時雇用の人に渡したりもします。私の職場では顧客ごとの業務マニュアルもあって、任せる側としては安心材料です。

例えば業務マニュアルでは済まないような職種や、重要なポジションの人が育休を取得することでプロジェクトが止まったりしませんか。

多くの場合、「この人いなくなっちゃった、大変!」と思っていても、やってみると「なんとかなるんだ」で終わるものです。雑な言い方に聞こえるかもしれませんが、それでもなんとかなるような経営でなければノルウェーで事業は営めないとも言えます。ノルウェーは日本ほど顧客至上主義に追いまくられる企業文化ではない、というのもありますね。「いま彼は育休だから」と、仕事が延び延びになったり、顧客も気長に待ってくれたりする風潮は確かにあります。 もちろん例外もあります。大企業ならともかく、中小企業や自営業・フリーランスだとどうしても代替人材がいない役割もあるでしょう。またトップに近い人でキャリア面を強く心配する人もいました。約十年前の上司の女性でしたが、会社と交渉して半日(50%)勤務の形で残り半日を育休扱いとし、「完全に職場を空ける」ことを避けていました。不安だったんでしょうね。

フリーランスにも育休が!―多様化する「仕事のかたち」にも対応

自営業やフリーランスの父親にも育休があるのですか?

ノルウェーでは、育休取得可能期間や収入の補填額(給付額)について、自営業者もフリーランスも正社員も同じように収入要件で判定されます。かつては正社員とそれ以外ではもらえる額に違いがありました。これは今では是正され、収入額が同じであれば、正社員でも非正社員でも給付額は同じです。自営業やフリーランスでも同じです。

そうした制度の対象範囲が広いのは、どうしてなのでしょう。

それは育休の原資である「国民保険(Folketrygden)」のなりたちが関係しています。ノルウェーの国民保険は日本のしくみと違って非常に包括的で、日本で言うところの老齢年金、健康保険、雇用保険などがこれに一元化されています。手続き上も給与からの天引き、または確定申告+納税の形で済み、国民はほぼ所得税の一部としての認識で保険料を支払います。保険料負担は、正社員(8.2%)と自営業者(11.4%)で異なってはいますが、正社員の場合その差分にあたる部分を雇用者が負担しています。しかしどちらも同じ「国民保険」で、みんな1つの財布なんですよ。

日本でも父親育休こそが男女平等への一丁目一番地と見られていますが、まだまだノルウェーほど浸透しているとは言えません。中小企業では難しいとか、自営業者の場合はどうするのかといった声があがっています。ノルウェーではなぜ、業種によらず多くの人が父親育休を取得しても大丈夫なのでしょうか?

それは、給与の補填があることと、取らないと奥さんが怒るからですよ(笑)! どちらかがママ・クオータまたはパパ・クオータの日数以下で休暇を切り上げて復職すると、子どもがまだ1歳にならないうちに両親ともに働いているという状況になってしまいます。ノルウェーには0歳児を預けられる保育園はほとんどありません。高額なプライベートのベビーシッターを雇って父母ともに仕事に戻るか、もう一方が給与無補填の休暇をとるか。出産後のお母さんにもちゃんと復職プランがありますから、パートナーが早めに復職するために、自分だけ無補填で仕事を休むことを甘受する女性はあまりいないと思いますし、それはフェアではないですよね。

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あなたにも大事な仕事があるかもしれないけど、私だって同じよ、と。父親の育休も、目一杯長くとる人と、パパ・クオータ分だけとるという人がいますよね。どういうところで違ってくるのでしょうか?

育休期間も働いている時と同じ金額が補填されるのですが、国が出す育休の給与補填額には上限があり(日本円で年収815万円ほど)、それ以上の高額所得者にとっては、育休の期間は収入がマイナスになることがありえます。その場合はどうしても休暇期間を短くしようとする心理が働くのでしょうね。

当たり前のように職場に子どもがいる

父親の育休の他にも、ノルウェーの職場は社員の家族生活を大事にしますね。一般の職場がどのようなものか、教えてください。

職場によって差はありますが、一般的なオフィス環境ですと、朝は早くから始動する人も多く、夕方は午後4時位には多くの人がいなくなっています。ノルウェー人はとても早起きなのです。学童保育も、平日の朝7時から8時半の始業前も受け入れている。とにかく早朝から子どもを送り出し、その分さっさと仕事を終わらせて家に帰る。特に、小さい子どもがいる親は退社が早いですね。私の会社もコアタイムを午前9時から午後3時までに設定していますが、3時以降は保育園のお迎えとかで、皆さんサーッといなくなる(笑)。

子育て家庭だと、子どもの風邪や休校など突発的なこともよく起こります。

子どもの病気には有給の子ども介護休暇で対応できます。それもシングルマザーやシングルファザーだと取得日数が増えます。

また皆さん、当たり前にお子さんを職場に連れてきますね! 子どもは絵を描いていて、親はその横で仕事していたり。子どもに雑用を頼むと喜んでやってくれたりしてかわいいものです。社内に子どものプレイルームが併設されている会社もあります。

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それが当たり前に…ですか。それでも、ノルウェーにとって当たり前の職場環境が、日本では当たり前ではないこともあります。

目の前にそういう光景がないと選択肢があることすらわかりません。子どもがいても仕事ができるんだ、なんとかなるんだ、ということは私もノルウェーに来て初めて実感しました。日本には日本社会に馴染むやり方があると思いますが、ノルウェー社会で行われている取り組み、雇用のあり方、家族のあり方は、日本人にとって、新しい選択肢発見のためのヒントの宝庫であると私は思います。

空は青かった

日本の「父親」に向けて、何かアドバイスはありますでしょうか。

以前に父親育休を取得したノルウェー人男性と話していた時です。その人も取得前は育休期間中の仕事がとても気になっていました。けれど、いざ育休期間に入ったある日、何の気なしにベビーカーを押していて、ふと青空を見上げた瞬間、いつも見過ごしていた何かに気がついたというんですね。「新しいモノの見方ができるようになり、人間性も豊かになれた」と。

「人生、仕事ばかりじゃない」ことへの気付きは人間としての強さにつながりますね。私(沓掛)も父親として育休をとりましたので、心から同意します。では日本の「母親」に向けては。

男性も女性も従来のジェンダーロール固定の方が居心地良いと思っているという人もいます。しかし今は、他の人はともかく自分はどうなのかを考えてほしいです。そして夫婦でしっかり議論するとよいと思います。夫の仕事。妻の仕事。それぞれ将来どういうキャリアを歩んでいきたいか、時間をとって徹底的に話し合う。夫や子どもを言い訳に、なにかを諦めたり、思考停止になったりしてはもったいないです。一方で、家事育児が好きなのであれば、主婦という選択をすることに堂々としているべきだし、そこは主婦が堂々としていられるとはあまり言えないノルウェー社会を反面教師に、社会全体で考えるべき課題なのだと思います。

ノルウェーでも2021年9月13日に政権選択の総選挙がありました。新内閣で28歳の女性が法務・公共安全大臣に任命されたのが話題になっていました。

ノルウェーでは男女が平等であるのと同じくらい、老若も平等なのです。若い世代の投票率も非常に高いです。若者の意見が尊重されますし、組織のリーダーシップにおいても新規性やチャレンジ精神など若者の強みが重要視される。この点についても日本社会でぜひ議論が高まってほしいと思っています。

おわりに

働き方はますます多様になってきていますし、ひとりの人生においても頻繁に変化する時代です。まずは、さまざまな事例を知って、選択肢を増やすこと。そして、この記事のような話が育休の整備が進んでいる職場で働く人のみに関わる情報としてではなく、育児の当事者でない人にとっても暮らしやすいと感じられる社会をつくるための一助になればと願います。

Text by Toshiya Kutsukake,Aki Kimura
Photographs by Akira Hojo(ポートレート)



木村亜希 きむら・あき

電通総研アソシエイト・プロデューサー

東京都生まれ千葉県育ち。東京大学文学部歴史文化学科日本史学専修課程卒。TCC(東京コピーライターズクラブ)会員。2005年より電通、2020年2月より電通総研。主な研究テーマは次世代の教育と地域。

東京都生まれ千葉県育ち。東京大学文学部歴史文化学科日本史学専修課程卒。TCC(東京コピーライターズクラブ)会員。2005年より電通、2020年2月より電通総研。主な研究テーマは次世代の教育と地域。