トピック①
「宇宙旅行ビジネス」
宇宙旅行に伴うリスク
宇宙旅行商品はすでに販売されているし、実際におこなった人たちもいます。そこで出てくるのが、生命・健康リスクの問題です。短期的なミッションなどでもリスクはありますが、より長期的な活動、例えば、宇宙ステーションホテルに長期滞在するとか、火星旅行に行くとなると、非常に多くの健康リスクに直面することになります。
例えば、宇宙線被ばくの問題があります。宇宙空間には高エネルギーの放射線が飛び交っており、これを宇宙線と呼びます。当然、地球にも宇宙線は降り注いでいますが、大気や地磁気といったバリアがあるおかげで、地上で暮らしている分には大きな健康上の影響はありません。逆に言えば、宇宙空間に出てしまうと、地球のバリアに守ってもらえなくなるわけです。宇宙旅行ビジネスは、そのような環境に旅行客や従業員を連れ出すことになります。その他にも、微小重力環境に長くいると、骨量減少、筋萎縮、視力低下といった身体的影響を受けることが知られています。また、危険な宇宙空間にぽつんと浮かぶ宇宙船や宇宙ステーションの中に閉じ込められた状態は、精神面にも悪影響を及ぼすかもしれません。このように、宇宙旅行には、地球上での旅行では直面しないような健康リスクがたくさんあります。
致命的な事故リスクも大きくのしかかります。出発から帰還までのどこかの段階で、過去のスペースシャトル事故のような悲劇が起こるかもしれないという懸念は、まだ十分に払拭される段階に至っていません。また、その場で全員が命を落とすような事故でなかったとしても、なんらかの事故が生じた場合の生還可能性は、地球上での旅行よりもはるかに低いように思われます。そもそも生身の人間が一歩でも外に出ればすぐに命を落とすような場所への旅行ですし、食料や医薬品などの物資も持っていった分しか使えません。負傷者を自動車で病院に連れていくこともできませんし、ヘリコプターが救助に来てくれることもありません。
離脱や救援の不可能性は、事故の場合に限らず、宇宙旅行に特有のリスクをもたらすでしょう。旅行中に事件やトラブルがあっても、一部のメンバーだけが途中で帰ることはできませんし、警察も消防も救急も呼べません。また、そうした状況自体が、なんらかの加害行為を助長してしまうようなケースも考えられます。
こうしたリスクは、いずれは技術的に解決できるようになっていくかもしれませんが、まだそのような技術は確立していません。そうした段階で、宇宙旅行商品を販売して利益を得ることは許容されるのか。また、許容されるとしたら、どのような条件下で許容されるのか。そういった問題が倫理的な関心の対象になります。宇宙旅行ビジネスをめぐる倫理的議論は、企業の事業立案、それに対する投資家の判断、法律・政策レベルでの枠組み構築、市民の態度形成などにおいて、ある種の根拠として参照できるものになるはずです。
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