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村田晶子氏・森脇健介氏・矢内琴江氏・弓削尚子氏
ジェンダーに関する身近な問題に気づくには
ジェンダーに関する身近な問題に気づくには
電通総研は全国12,000名を対象に「クオリティ・オブ・ソサエティ指標 第3回調査」を実施しました。「クオリティ・オブ・ソサエティ指標」は、サステナブルで将来に希望をもてる社会に向けて、人びとの実感と課題を探るために、「社会の質」に関わる40以上の設問項目をベースにして、電通総研が独自に作成した指標です。
本稿では過去3回の調査結果から、日本の人びとの「余力」「希望」「安心」に関する意識の時系列変化などをご紹介いたします。
◎「クオリティ・オブ・ソサエティ指標」の過去の記事はこちらです。
第1回: https://institute.dentsu.com/articles/2102/
英国版: https://institute.dentsu.com/articles/2157/
第2回: https://institute.dentsu.com/articles/2341/
本調査では、「地域」「日本」「世界」などに対し、現在「余裕(余力)」があるか、「希望」があるか、「不安」があるかについて、「そう思う」「ややそう思う」「あまりそう思わない」「そう思わない」の4段階で回答してもらっています※1。「余力」「希望」は「そう思う」と「ややそう思う」の合計、「安心」は不安があるかを聞いているので「そう思わない」と「あまりそう思わない」の合計の百分率を指標として活用します。数値が大きいほど余力や希望があることや、安心していることを示しています。
グラフの全体的な傾向として、すべての指標が第1回調査(2021年5月)から第2回調査(2021年10月)にかけては増加し、第2回調査から第3回調査(2022年6月)にかけては減少しているため、逆V字(山型)になっています※2。
この数年間、新型コロナウイルス感染症の拡大動向が人びとの意識に与える影響が大きかったと思われます。そこで各回調査が実施された期間の日本における感染者数と死者数の一日あたりの平均人数(出典:NHK特設サイト「新型コロナウイルス」2022年9月27日時点、小数点以下は四捨五入)を見ると、以下の通りでした。
■第1回調査(2021年5月6日~10日)期間平均 :感染者数 5,809人 死者数 85人
■第2回調査(2021年10月15日~19日)期間平均:感染者数 408人 死者数 19人
■第3回調査(2022年6月24日~29日)期間平均:感染者数 16,435人 死者数 29人
第2回調査は、当時の菅義偉内閣が19都道府県の緊急事態宣言および8県のまん延防止等重点措置のすべてを9月30日で解除し、制限を段階的に緩和しはじめた時期にあたります。第1回調査の時期にくらべると感染者数も死者数も(一時的に)落ち着いていたことが、楽観的な意識変化につながった可能性があります。しかし第3回調査の時期は感染者数が第2回調査の時期にくらべて40倍もの規模になり、自身が感染したり感染者が身近に出た人も急増した時期で、そのことが「揺り戻し」につながったと考えられます。
第2回調査から第3回調査の変化として特に目立つのが「世界」に対する「希望」と「安心」の低下です。「希望」は2回目41.9%が3回目37.1%になりマイナス4.8ポイント、「安心」は2回目15.7%が3回目11.2%とマイナス4.5ポイントで、他の項目にくらべて大きく低下しました。
「世界」に対するこれらの悲観的な意識変化の要因の一つとして、ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う世界経済の混乱が考えられます。ウクライナ侵攻は、第2回調査と第3回調査の中間にあたる2022年2月24日に開始され、大国による戦争行為が人びとの意識の上でも衝撃を与えました。また、国際通貨基金(IMF)が発表した「世界経済見通し」(2022年10月)によると物価上昇に伴う生活危機やロシアのウクライナ侵攻、長引く新型コロナウイルスのパンデミックなどが複合的に世界の経済活動を鈍化させ、先行き不透明なものにしています。
本調査では、「余力」「希望」「安心」の各項目について「10年後はどうなっていると思いますか」という未来への期待についても聞いています。これまで紹介してきた現在の数値と10年後の期待値を対比したのが上のグラフです。
現在との差で大きいのは「地域」の「安心」で、現在は53.4%と高かったのが10年後には40.5%と期待値が12.8ポイントも下がっています。一方で「世界」の「安心」は逆に現在は11.2%と低かったのが10年後の期待値は17.1%と6.0ポイント上がっています。ただしそれでもなお、不安度が高い順番が「世界>日本>地域」であることは現在でも10年後でも変わらず、身近なところほど安心感が高い傾向にあります。
また「日本」に関しては、「余力」は現在21.2%が10年後24.0%でプラス2.8ポイント、「希望」は現在32.3%が10年後32.7%でプラス0.3ポイント、「安心」は現在17.1%が10年後19.6%でプラス2.4ポイントとなり、変化なしか微増となっています。しかしいずれも1/3を超える水準にはなく、特に「安心」に関しては2割を切ったままです。多くの人は、現在の不安が10年後も大きくは変わらない、と考えているようです。
今回の調査では、新型コロナウイルス感染症の拡大動向に呼応するような意識変化が見られるとともに、戦争や経済に対する危機意識の高まりに連動するような結果も一部見られました。そのようななか、日本の人びとの「余力」「希望」「安心」の意識は現在も10年後への期待も低いままです。さまざまな危機が毎年のように複合的に起こっているなかで、どのようにしたら「余力」「希望」「安心」が高まっていくのでしょうか。特に地域では、現在に対する不安は46.7%と半数に至らないものの、10年後については不安と感じる人が59.5%と過半数を占めています。一人ひとりが身近な地域のあり方について考え、働きかけていくこと。そうした行動によって不安がやわらぐと同時に、よりよい社会の実現につながることを期待したいと思います。
電通総研は、今後も人びとの意識変化に注目しながら、「クオリティ・オブ・ソサエティ指標」を継続し、サステナブルで将来に希望をもてる社会を実現するためのヒントを探ってまいります。
◎「クオリティ・オブ・ソサエティ指標 第3回調査レポート(サマリー)」はこちらからご覧いただけます。
クオリティ・オブ・ソサエティ指標 第3回調査レポート(サマリー).pdf
この他、性・年代・地域別や、項目間相互の関連性を分析したレポートもご用意しております。ご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
※1 実際の設問文は、以下の通りです。
【地域の余力】自分の住む地域社会には人的、財政的な余裕(余力)がある
【日本の余力】日本には人的、財政的な余裕(余力)がある
【地域の希望】自分の住む地域社会には希望がある
【日本の希望】日本には希望がある
【世界の希望】世界には希望がある
【地域の不安】自分の住む地域社会には不安がある
【日本の不安】日本には不安がある
【世界の不安】世界には不安がある
なお【世界の余力】は設問していません。
※2 クオリティ・オブ・ソサエティ指標(各12,000サンプル)の標本サイズの誤差幅は、信頼区間95%とし、誤差値が最大となる50%の回答スコアで計算すると約±1.3となります。2時点の差が±1.3ポイント以上あるものは、有意な差があるとみなされます。
調査結果の各割合は回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値が必ずしも100%にならない場合があります。
Text by 日塔 史
電通総研プロデューサー/研究員
山形県生まれ。2020年2月より電通総研。現在の活動テーマは「次世代メディアとコミュニケーション」。経済学・経営学のバックグラウンドと、マスメディア・デジタルメディア・テクノロジー開発での実務経験を活かして、マクロ視点からコミュニケーションのメガシフトを研究する。
山形県生まれ。2020年2月より電通総研。現在の活動テーマは「次世代メディアとコミュニケーション」。経済学・経営学のバックグラウンドと、マスメディア・デジタルメディア・テクノロジー開発での実務経験を活かして、マクロ視点からコミュニケーションのメガシフトを研究する。