電通総研

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「クオリティ・オブ・ソサエティ」レポート
こちらは2023年までの電通総研が公開した調査関連のレポートです。過去のレポート記事は、以下のリンクからご覧いただけます。毎年掲げるテーマに即した、有識者との対談、調査結果、海外事例、キーワードなどがまとめられています。
電通総研コンパスvol.10
情報摂取に関する意識と行動調査

電通総研は、「クオリティ・オブ・ソサエティ」の活動基盤として、「人びとの意識の変化がどのような社会を形づくっていくのか」を捉えるため、「電通総研コンパス」と称した定量調査を実施しています。本調査では、情報が氾濫している現代社会で人びとの情報摂取に関する意識と行動について、全国15~79歳の計2,800名を対象に調査をおこないました。

2022年1月に鳥海不二夫教授(東京大学大学院工学系研究科)と山本龍彦教授(慶應義塾大学大学院法務研究科)により「健全な言論プラットフォームに向けて―デジタル・ダイエット宣言 version1.0」が発表され、その中で提言された「情報的健康」という考え方が注目されています。鳥海教授はじめ「情報的健康」に取り組む有識者の皆さまにご協力いただき、今回の調査をおこないました。

◎「健全な言論プラットフォームに向けて―デジタル・ダイエット宣言 version1.0」はこちらからご参照ください。

主な調査結果

1.「社会全体」で「誤った情報や情報の偏りによって、間違った判断をする人が多いと思う」が84.7%

本調査では社会と自分自身での情報摂取における意識の差異を検証するため、「社会全体」はどうなっていると思うか、次に同じ内容について「あなた自身」はどう思うかを、8項目に分けて聞いています。「社会全体」では、「誤った情報や情報の偏りによって、間違った判断をする人が多いと思う」がもっとも多く、全体の84.7%が「そう思う」(「ややそう思う」と「そう思う」の合計、以下同じ)と回答しました。その他の6項目でも6割以上が「そう思う」と回答している中、「デジタルメディアを通じた情報は、人それぞれ向けに最適化されていると思う」だけが半数を大きく下回り、34.6%という結果となりました。

2.「自分が受け取っている情報は、偏っていると思う」が66.1%

次に「あなた自身」が受け取る情報については、「偏っていると思う」が66.1%でもっとも多い結果となりました。「そう思う」が半数を超えているものは、多い順に「自分が必要としているよりも多いと思う」65.7%、「悲しみ、不安、怒りなどを誘発するものが多いと思う」56.7%、「ゴシップやスキャンダルなど扇情的なものが多いと思う」55.9%、「間違いが多いと思う」50.4%という結果となりました。

3.「社会全体」と「あなた自身」で認識の差が大きかったのは「誤った情報や情報の偏りによって、間違った判断をする人が多いと思う」

8項目について「社会全体」と「あなた自身」の認識の差をグラフで見てみましょう。1で取り上げた通り「社会全体」は「誤った情報や情報の偏りによって、間違った判断をする人が多いと思う」が84.7%であった一方、「あなた自身」が「誤った情報や情報の偏りによって、判断を誤ることが多いと思う」は45.4%という結果となりました。その差は39.4ポイントで8項目中もっとも大きく、「社会全体は誤った情報によって判断を間違うが、自分はそうではない」と考える傾向が見られます。

※スコアは「そう思う」「ややそう思う」の合算。「社会全体」と「あなた自身」の差が大きい項目順で掲載。

4.「情報が多すぎると、判断を間違えやすい」と思うが76.7%

情報を摂取する際の意識や行動について尋ねたところ、「情報が多すぎると、判断を間違えやすい」で「そう思う」と回答したのが76.7%でもっとも高くなりました。次に「そう思う」の回答が多いものは、「得た情報は、自分でも調べてから人に伝えるようにしている」70.1%、「匿名の人や肩書が不明な人の言っていることは不確かだと思う」69.5%、「自分にとって興味がないジャンルの情報に接することも必要だと思う」69.3%です。情報の信頼性を確かめたりなど、多様な情報に接することへの必要性は、多くの人が意識していることがわかりました。逆に「そう思う」がもっとも少なかったのが、「面白い情報であれば、誤った情報が流通してもかまわない」の11.9%で、誤情報が流通することには否定的なようです。

5.情報を受け取る際の“意識”と“行動”との間には開きがある

情報を受け取る際に意識していることでは、「疑問に思った情報は、しっかり調べて真偽を確認したほうがよい」が88.9%で一番高い。一方、実際の行動を聞いたところ「疑問に思った情報は、しっかり調べて真偽を確認する」と回答したのは65.6%で、“意識”と“行動”で23.3ポイントの差がありました。別途「真偽を確認したほうがよい」と回答した人に限定し、その人が「調べて真偽を確認する」と回答した比率を別途集計したところ69.5%になりました。

6.「フェイクニュース」の認知度は91.3%

情報空間、情報摂取に関する言葉の認知を尋ねたところ、「フェイクニュース」の認知度が今回の調査ではもっとも高く91.3%となりました。次いで高い順に、「メディアリテラシー」56.6%、「ニュースリテラシー」51.1%、「ディープフェイク」45.9%という回答となりました。「フィルターバブル」「アテンションエコノミー」「エコーチェンバー」の認知度はまだ低く、2割に達しません。

「メディアリテラシー」(10代と70代との差47.5ポイント)、「ニュースリテラシー」(10代と70代との差33.0ポイント)に関しては、若年層になるほどよく知っている言葉となっています。小中学校で情報教育が拡大していることも関連しているのではないかと推測されます。

※認知度は「言葉も内容もよく知っている」「言葉と内容がなんとなくわかる」「言葉は知っているが内容はわからない」の合算

 まとめと考察

今回の調査で、情報に対する人びとの意識の現状を把握することができました。社会全体での情報に関しては課題意識が高いものの、自分自身が受け取る情報については楽観的な傾向が見られました。また情報を受け取る際の“意識”と“行動”との間には開きがあるため、行動に移すためにはどうすればよいかを考える必要があります。「フィルターバブル」「アテンションエコノミー」「エコーチェンバー」という言葉の認知度も低い結果でした。

鳥海教授と山本教授らによる「情報的健康」のプロジェクトでは、ユーザー・デジタルプラットフォーム(DPF)事業者・既存のマスメディアの変革と、政府が「情報的健康」の実現に向けて側面的支援をおこなうことの必要性が述べられています。具体的には種々のコンテンツ等がどのようなバランスにおいて表示・配信されているのかをユーザー自身が把握するための指標づくりや、ユーザー自身が「情報的健康」の状態を確認するための「情報ドック」の機会の提供などを提言しています。「情報的健康」に関する議論はまだ始まったばかりですが、人びとの課題意識は決して低くはありません。「情報的健康」について、一人ひとりが「自分ごと化」していくためには、こうした取り組みが今後ますます重要になってくると考えられます。

東京大学・鳥海教授によるコメント

現在社会は、情報過多となっており、我々は接触する情報を自分自身で取捨選択することができなくなっています。我々は、そのような現代の情報空間がどのようなものなのかをうっすらとはわかっているものの正確には理解しきれていないことが本調査から明らかになりました。特に,現代情報空間の重要な特徴であるエコーチェンバーやフィルターバブル、そしてアテンションエコノミーについて認知されていないことが改めて明らかになりました。間接的にフェイクニュースや陰謀論の温床となるこれらの性質を知らずに、現代の情報空間を理解することはできません。

一方で、我々が接する情報の偏ることがあり、偏った情報によって判断を間違える危険性があることは多くの方が認識していることも明らかになりました。しかし、「自分は大丈夫」と思ってしまいがちであり、情報の真偽を調べることの重要性は理解しているが実践する難しさが示されたと思います。 現代の情報空間において「情報的健康」を維持するためにはリテラシーの向上に向けた個人の努力だけでなく、社会的な支援が必要不可欠であることが示されたといえるでしょう。

◎レポート詳細はこちらからご参照ください。
【電通総研コンパス第10回調査】情報摂取に関する意識と行動調査.pdf

グラフ内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しています。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。

●「電通総研コンパス」第10回調査(情報摂取に関する意識と行動調査)
調査時期:2022年10月14日~17日
調査方法:インターネット調査
対象地域:全国
対象者:15~79歳の男女計2,800名
調査会社:株式会社電通マクロミルインサイト
協力:株式会社電通デジタル、株式会社電通
本調査に関する問合せ先
本調査に関する問合せ先
電通総研 担当:山﨑、日塔、合原、木村
E-mail: qsociety@dentsusoken.com
URL: https://qos.dentsusoken.com

Text by 合原 兆二
Photograph by Vitalii Pavlyshynets on Unsplash



合原兆二 ごうばる・ちょうじ

電通総研 プロデューサー/研究員

1990年、大分県日田市生まれ。中央大学商学部卒業後、2013年、株式会社電通九州に入社。福岡本社営業局、北九州支社を経て、2022年4月より電通総研。各種調査のほか、「地域」「メディア」「持続可能な食文化」などをテーマに活動。

1990年、大分県日田市生まれ。中央大学商学部卒業後、2013年、株式会社電通九州に入社。福岡本社営業局、北九州支社を経て、2022年4月より電通総研。各種調査のほか、「地域」「メディア」「持続可能な食文化」などをテーマに活動。