

もし、「想定外」の災害が発生したら、私たちはどうしたらいいのでしょうか。防災・減災の第一歩は、いかに普段から災害を「自分ごと化」として捉えるかです。自然災害に対する人びとの意識や行動に関する調査結果と災害を伝承する取り組み事例から、「自分ごと化」の鍵を探ります。
防災・災害に対する意識と行動
電通総研がおこなった「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」で、「関心のある社会課題」を12か国で尋ねたところ、「自然災害」を挙げた人はベトナムで66.0%、フィリピンで61.0%、日本で57.2%という結果でした。挙げられた「社会課題」を各国別にランキングしてみると、日本では自然災害が1位となりました(図1)。

同じく電通総研がおこなった「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査2022」では、さまざまな社会課題に対して、「解決すべき課題だと思う」か、「関わりたいと思う」か、「活動をしている」かを尋ねました。「解決すべき課題※1」として挙げた15項目中、もっとも高い回答率を示したのは「防災・減災対策」の97.0%で、とても多くの人びとが解決すべき課題であると認識していることがわかりました(図2)。
※1 「解決すべき課題だと思う」は、「解決すべき課題だと思うが、自ら関わりたいとは思わない」、「解決すべき課題と思うし、自ら関わりたいと思っている」、「その課題について自分で何か実践や対策をしている」、「その課題について周りの人を巻き込んで活動している」の合計

しかし、「防災・減災対策」について「自ら関わっている※2」と回答した人は「解決すべき課題だと思う」と比べるとかなり低く、14.2%という結果でした(図3)。人びとの関心や課題意識はとても高い一方で、実際の行動には至っていないことがわかりました。
※2 「自ら関わっている」は、「その課題について自分で何か実践や対策をしている」+「その課題について周りの人を巻き込んで活動している」の合計

自然災害に対する当事者意識
さまざまな社会問題に対して当事者意識を持つべき主体について、人びとはどのように考えているのでしょうか。同じく「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査2022」では、今、実際に起きている、または起こるリスクがあると考えられている16の社会問題それぞれについて、当事者意識を持つべき主体を「政府」「地方自治体」「企業」「NGO(非政府組織)、NPO(非営利組織)」「コミュニティ(町内会、PTAなど)」「家族・親戚」「個人」「その他」「この問題の解決に取り組む必要はない」の中から選択してもらいました。
「個人」が当事者意識を持つべき社会問題のうち、自然災害に関わる項目に注目すると、「異常気象(巨大台風、豪雨、豪雪)」で26.4%、「巨大地震、火山噴火」で23.5%という結果でした(図4)。自然災害の多い日本では、誰もが、いつ、被災者になるかわかりません。にもかかわらず、個人が自然災害に対して当事者意識を持つべきと考える人はそれほど多くはないようです。

災害について話し合ったことがありますか?
内閣府がおこなった「防災に関する世論調査」を見ると、「自然災害への対処などを家族や身近な人と話し合ったことがありますか」という設問で、「ある」と答えた人は61.4%で、「ない」と答えた人は36.9%でした(図5)。

話し合ったことがない理由としては、「話し合うきっかけがなかったから」が一番多く58.1%でした(図6)。

【事例】災害伝承の取り組み
自然災害による被害を後世に伝えていくことを「災害伝承」といいます。ここでは、東日本大震災後に、震災の被害や教訓を伝承する取り組み事例を紹介します。
3.11伝承ロード
「3.11伝承ロード」とは、2011年3月11日に起こった東日本大震災後、被災地に存在する災害遺構※3 や震災伝承施設をネットワーク化して、防災に関する取り組みなど、教訓を風化させず伝えていこうとする取り組みです。
※3 災害遺構とは、地震の被害の大きさや悲惨さ、教訓などを伝える被災建物などの構造物

東日本大震災の被災地には、地震や津波の痕跡を残す震災遺構や伝承施設が数多く存在しています。その施設を「震災伝承ネットワーク協議会(青森県、岩手県、宮城県、福島県、仙台市、復興庁、国土交通省東北地方整備局で構成)」が「震災伝承施設」として登録し、マップや案内標識の整備などネットワーク化し、防災や減災、津波などに関する「学び」や「備え」に関するさまざまな取り組みをおこなっています。
東日本大震災後、政府が示した「復興構想7原則」の1番目に伝承の必要性が掲げられ、復興庁による震災遺構の保存支援・整備、震災伝承施設や慰霊碑、モニュメントの整備が進められてきました。2019年8月1日に産学官民が連携した「一般社団法人3.11伝承ロード推進機構」が発足し、「3.11伝承ロード」の取り組みが始まりました。「教訓が、いのちを救う。」をスローガンに、現在、東北エリアで300件を超える※4 震災伝承施設をネットワーク化しています。
※4 2022年10月1日時点

被災地にある震災伝承施設は、複数の県にまたがる広大なエリアに数多く点在しています。管轄している組織が異なる中で、県や自治体の垣根を越えてネットワーク化していることは、とても意義のある取り組みだと思います。現在では、メディアを通して、さまざまな被災の情報を得ることが容易な社会です。しかし、実際に震災遺構、伝承施設を見ることで被災の悲惨さを身に染みて感じ、自分自身の防災意識を高めることができるのではないかと思います。
地震だけではなく、台風や集中豪雨、土砂災害、火山噴火などの災害が日本各地で起こっています。悲惨な記憶を決して無駄にせず、次の世代の防災へつなげる取り組みが全国に広がっていくことが、一つでも多くの命を救うことにつながるのではないでしょうか。


https://www.311densho.or.jp/
最後に
関東大震災から100年、阪神・淡路大震災から28年、東日本大震災から12年を迎えようとしています。2023年2月に発生したトルコ・シリア大地震では、とても多くの犠牲者が出ました。
震災の経験や教訓を伝えることで、一つでも多くの命を救うことにつながると考え、多くの方が尽力してきました。しかし東日本大震災の被災地での追悼式典も年々、減り続けています※5。また、人口減少や高齢化、新型コロナウイルス感染症、維持費・人件費など予算の影響もあり、年々、伝承活動を断念せざるを得ない事態となっています。震災を経験した人は、年が経つにつれてどんどん少なくなり、人びとの記憶も風化していきます。風化を少しでも食い止め、いつ、どこで起こるかわからない災害に備えることが必要です。
※5 日本経済新聞2023年2月11日付を参照
政府の地震調査委員会は、南海トラフ地震について、30年以内にマグニチュード8~9クラスの地震が70~80%の確率で発生するとしています。※6
また、東京都は昨年、10年ぶりに将来起こるであろうと言われている直下地震の被害想定を見直しました。首都直下地震による被害想定は、死者約6150人、負傷者約9万3400人、避難者約 299万人、帰宅困難者約 453万人と推計されています※7。
※6 2023年1月1日時点
※7 東京都防災ホームページ「首都直下地震等による東京の被害想定(令和4年5月25日公表)(https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/torikumi/1000902/1021571.html)」を参照
どれだけ技術が進み、インフラ設備などハード面を整備されても、人の意識を変えないと本当の防災にならないと思います。地震はいつどこで起きても不思議ではありません。もし「想定外」の災害が発生した時には、私たちはどのように行動すればいいのでしょうか。
それを考えるためにも、普段から身近な人と災害や防災について話し合うことが必要なのかもしれません。そして、話し合うためには、まず、“きっかけづくり”が必要となることが調査結果から明らかとなりました。本記事でとりあげた「3.11伝承ロード」など、防災の活動や取り組みに興味・関心を持つことは、話し合う“きっかけづくり”の一つとなり得ます。普段から身近な人と話し合うことを通じて、いかに災害を「自分ごと化」として捉えるかが、防災・減災の一歩となることでしょう。
◎「サステナブル・ライフスタイル・レポート2021」はこちら
◎「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査 第4回調査レポート」はこちら
Text by 合原兆二
Photograph by e on Unsplash

合原兆二 ごうばる・ちょうじ
電通総研 プロデューサー/研究員
1990年、大分県日田市生まれ。中央大学商学部卒業後、2013年、株式会社電通九州に入社。福岡本社営業局、北九州支社を経て、2022年4月より電通総研。各種調査のほか、「地域」「メディア」「持続可能な食文化」などをテーマに活動。
1990年、大分県日田市生まれ。中央大学商学部卒業後、2013年、株式会社電通九州に入社。福岡本社営業局、北九州支社を経て、2022年4月より電通総研。各種調査のほか、「地域」「メディア」「持続可能な食文化」などをテーマに活動。

