電通総研

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「クオリティ・オブ・ソサエティ」レポート
こちらは2023年までの電通総研が公開した調査関連のレポートです。過去のレポート記事は、以下のリンクからご覧いただけます。毎年掲げるテーマに即した、有識者との対談、調査結果、海外事例、キーワードなどがまとめられています。
電通総研コンパスvol.11
ジェンダーに関する意識調査(2023年)

電通総研は、「クオリティ・オブ・ソサエティ」の活動の基盤として、「人びとの意識の変化がどのような社会を形づくっていくのか」を捉えるため、「電通総研コンパス」と称した定量調査を実施しています。本調査は、ジェンダーに関する人びとの意識について全国18~79歳の計3,000名を対象とした、2021年から継続している調査の3回目です。

◎レポート詳細はこちらをご参照ください。
【電通総研コンパス第11回調査】ジェンダーに関する意識調査

調査結果

1.2021年と2023年の比較で、社会全体と複数の分野において「男性のほうが優遇されている」と考える人が増加

社会全体とさまざまな分野で「男女は平等になっているか」を尋ねたところ、「社会全体」で「男性のほうが優遇されている・どちらかというと男性のほうが優遇されている」(以下、男性優遇・計と表記)と答えた人が本調査では68.4%となり、2021年との比較で3.8ポイント増加しました。各分野で男性優遇・計の回答が増加したのは「慣習・しきたり」74.7%(2021年から10.3ポイント増加)、「国会・議会などの政界」83.9%(2021年から7.5ポイント増加)となりました。またその二つより緩やかですが「家庭」「法律・制度」でも増加の傾向が見られました。
一方で、「職場」「学校」「メディアでの扱われ方」においては、男性優遇・計の回答率にこの3年で有意な変化は見られませんが、「職場」では本調査で58.7%と半数を超えています。

補足)男性優遇・計と同様に、「女性のほうが優遇されている・どちらかというと女性のほうが優遇されている」を女性優遇・計と表記しています。

2.どの分野においても、現在平等でないと考える人の約8割が「今後は平等を目指すべきだ」と回答し、男性よりも女性のほうが平等を望んでいる

先の質問で平等ではないと回答した人に「男女の差は、今後どうなっていくべきか」を尋ねたところ、「社会全体」で78.4%が「今後は平等を目指すべきだ」と回答しています。各分野で多少の差はありますが、平等を目指すべきという回答率の高い順に「法律・制度」83.6%、「国会・議会などの政界」82.2%、「メディアでの扱われ方」81.9%、「学校」80.6%、「職場」77.3%、「慣習・しきたり」76.2%、「家庭」75.1%と、どの分野でも約8割が現在の不平等から未来の平等への移行を望んでいることが見られました。また、男性よりも女性のほうが現在平等でないと考えている人が多く、「今後は平等を目指すべきだ」と考える割合も高いことがわかります。(男女比較はレポート詳細をご参照ください。)

3.約4割が身近に経験・実感・見聞きしている「男性稼ぎ主(稼ぎ手)モデル」「ルッキズム」「アンコンシャス・バイアス」であっても、それぞれの言葉の認知は低い

2022年調査時点で「ジェンダー」という言葉の認知は67.5%でしたが、ジェンダーに関連するそのほかの用語の認知度は全般的に低い傾向が見られました。そこで、今回は、用語の認知に関する質問だけでなく、各用語の説明を示した上で「日々の生活で経験・実感・見聞きすることはあるか」を尋ねる質問を加え、用語の認知と、日々の生活での経験・実感・見聞きの差を調べました。その結果、日々の生活での経験・実感・見聞きする(「よくある」「ときどきある」計)の回答率が高かったのは「男性稼ぎ主(稼ぎ手)モデル」「ルッキズム」「アンコンシャス・バイアス」でしたが、それぞれの用語の認知(「内容までは知らないが、言葉だけは知っている」「内容まで知っている」計)は10%台と低く、経験・実感・見聞きはしていても、それを表現する言葉が知られていないことがわかりました。

「ルッキズム」については、言葉の認知は19.0%ですが昨年(13.1%)から5.9ポイント増加し、また男女ともに若年層ほど認知が高くなっています。(性・年代比較はレポート詳細をご参照ください。)それに加えて「日本では外見の美しさや見た目が重要視されすぎている」にそう思うと回答した人(「そう思う」「ややそう思う」計)は76.6%(男性70.4%、女性82.7%)となり、昨年(全体72.0%、男性66.4%、女性77.5%)から4.6ポイント(男性4.0ポイント、女性5.2ポイント)増加しました。男女ともに「外見の美しさや見た目が重要視されすぎている」が増加傾向にあることから、男女共通する課題と言えそうです。

4.性別による差別をなくすためには教育が重要と考えられており、「男らしさ・女らしさ」規範への意識には男女での差に加えて、男性に年代差も見られる

「性別による差別をなくすためには教育が重要だ」にそう思うと回答した人(「そう思う」「ややそう思う」計)は全体85.7%でした。男性83.8%、女性87.6%と男女ともに教育の重要性を期待していることがわかります。

一方で「男は男らしく、女は女らしくあるべきだ」という考えにそう思うと回答した人(「そう思う」「ややそう思う」計)は全体38.2%ですが、男性48.8%、女性27.7%と20ポイント以上の男女差があります。また女性は18歳-60代ではいずれも2割台となっており、70代を除きあまり年代差が見られません。それに対して男性は年代による差が見られ、18-29歳は31.9%と全体平均より低いですが、30代と40代は4割台、50代と60代は5割台、70代は6割台で、「男は男らしく、女は女らしくあるべきだ」にそう思うと回答した人は年代が上がるほど増加する傾向がありました。

また「ジェンダー平等に向けて性別に関係なく協力できている」にそう思うと回答した人(「そう思う」「ややそう思う」計)は全体47.8%で、男性49.4%、女性46.2%と性別による差はあまりありません。むしろ年代による違いがあり、18歳-30代は過半数が「そう思う」「ややそう思う」と回答し、40代は「そう思う」「ややそう思う」も「あまりそう思わない」「そう思わない」もほぼ半数、50-70代は過半数が「あまりそう思わない」「そう思わない」と回答している傾向が見られました。

考察とまとめ

電通総研のジェンダー調査は3回目となりました。2021年からの変化として、「社会全体」と複数の分野において「男性のほうが優遇されている」という回答が増加しています。この結果については二つの可能性があると考えられます。一つは、男性のほうが優遇される現実があってそのように感じる人の増加を反映している可能性です。もう一つは、アウェアネス(問題に対する気づき)の高まりを反映している可能性です。

今回の調査ではこの二つの可能性について直接的な根拠となりえる質問は取ってないため、どちらであるかを結論づけることはできません。しかし、3回の調査全体を通した変化を見ると、男女平等やダイバーシティへの意識が変化している様子や「男らしさ・女らしさ」規範への抵抗を示す人の増加が、少しずつではありますが感じられるものとなっています。ここ数年、Diversity(ダイバーシティ、多様性)、Equity(エクイティ、公平性)、Inclusion(インクルージョン、包括性)への注目が高まり、ジェンダーに関する話題がさまざまなメディアを通して発信され、人びとに身近になりました。そのような中で、女性を中心にジェンダー視点で物事を見る機会が増えていること、またSDGsに関する教育(SDGグローバル指標には「ジェンダー平等を実現しよう」が掲げられています)が若い世代に影響を与えていることも考えられます。男性のほうが優遇されているという回答の増加は、現実の反映か、アウェアネスの高まりか、これについては今後の課題としたいと思います。

ジェンダーに関連する用語の認知度は10%台が多いという結果となりましたが、日々の生活での経験・実感・見聞きでは多くが認知を上回っていました。この用語の認知と経験・実感・見聞きの差は、ジェンダー問題でよく語られる「日々の生活の中で感じる、明確に言語化できない違和感」をまさに表しているように感じます。用語を知ることで、「今自分が受けた・見た発言や行動は~であり、問題である」と気づく第一歩へとつながります。人びとの間でジェンダー平等に向けた意見が交わされるようにするためにも、学校だけでなく、家庭や職場などさまざまな場での教育や啓発活動が引き続き求められると思われます。

2023年6月、世界経済フォーラムから2023年のジェンダー・ギャップ指数が発表されました。日本は146か国中125位と、2022年の116位から順位を下げました。ジェンダー平等の達成度を数値化したスコアは、2022年の0.650から2023年は0.647と後退しました。(1をジェンダー平等が達成された状態とする。)世界の多くの国でジェンダー平等に向けて変革が進む中、相対的に日本の取組みが遅れていることが数字に表れています。日本と世界の今後の変化に注目したいと思います。

◎2021年および2022年のジェンダーに関する意識調査はこちらをご覧ください。
電通総研コンパスvol.6 ジェンダーに関する意識調査(2021年)
電通総研コンパスvol.8 ジェンダーに関する意識調査(2022年)

*グラフ内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しています。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。

**本調査(各3,000サンプル)の標本サイズの誤差幅は、信頼区間95%とし、誤差値が最大となる50%の回答スコアで計算すると約±2.5となります。年ごとの比較では±2.5ポイント以上あるものは、有意な差があるとみなされます。

調査概要
タイトル:「電通総研コンパス」第11回調査(ジェンダーに関する意識調査)
調査時期:2023年4月20日~23日
調査手法:インターネット調査
対象地域:全国
対象者:18~79歳の計3,000名(高校生・高専生を除く)
調査会社:株式会社電通マクロミルインサイト
本調査内容に関する問合せ先
電通総研  山﨑・中川・若杉
E-mail:qsociety@dentsusoken.com

Text and photo by Mayumi Nakagawa



中川真由美 なかがわ・まゆみ

電通総研 チーフプロデューサー/主任研究員

徳島県生まれ。2002年株式会社電通に入社し、マーケティング、イベント、PR、ビジネスプロデュースなどの領域を担当。2023年より電通総研。人間科学的アプローチから、主にDEI、学びなどを研究する。

徳島県生まれ。2002年株式会社電通に入社し、マーケティング、イベント、PR、ビジネスプロデュースなどの領域を担当。2023年より電通総研。人間科学的アプローチから、主にDEI、学びなどを研究する。

若杉茜 わかすぎ・あかね

電通総研プロデューサー/研究員

2022年4月より電通総研。活動テーマは「ケア」「ウェルビーイング」。クリエーティブ、コミュニケーションプランニングの実務経験と人文系研究のバックグラウンドを生かして研究活動をおこなう。

2022年4月より電通総研。活動テーマは「ケア」「ウェルビーイング」。クリエーティブ、コミュニケーションプランニングの実務経験と人文系研究のバックグラウンドを生かして研究活動をおこなう。