電通総研

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「クオリティ・オブ・ソサエティ」レポート
こちらは2023年までの電通総研が公開した調査関連のレポートです。過去のレポート記事は、以下のリンクからご覧いただけます。毎年掲げるテーマに即した、有識者との対談、調査結果、海外事例、キーワードなどがまとめられています。
電通総研コンパスvol.9
気候不安に関する意識調査(日本国内版)

電通総研は「クオリティ・オブ・ソサエティ」の活動の基盤として、「人びとの意識の変化がどのような社会を形づくっていくのか」を捉えるため、「電通総研コンパス」と称した定量調査を実施しています。第9回は「気候不安」をテーマとし、気候変動が人びとの意識と行動にどのような影響を与えているか考察することを目的としています。

先行研究

本調査は、2021年にバース大学の研究者が中心となり10か国で実施した「Climate anxiety in children and young people and their beliefs about government responses to climate change: a global survey(子どもと若者における気候不安と気候変動への政府の対応についての考え方:国際調査)」と同じ質問票を、共同筆頭著者であるエリザベス・マークス博士らの許可を得た上で使用しています。日本調査では、先行研究と同じ8つの質問を日本語訳したものに独自の設問を追加し、日本在住の16-65歳、計5,000人を対象に調査を実施しました。

本記事では、この調査の日本国内における結果について、年代別・男女別等でご紹介します。気候不安の概要や、10か国での調査結果との比較(対象は16-25歳)については、こちらをご覧ください。

日本の調査結果

1. 年代が上がるほど気候変動の影響を心配する傾向。男女別では女性の方が「心配している」割合が高い

「私は気候変動が人びとや地球を脅かすことを心配している」かどうかを尋ねる質問に対し、「極度に心配している」もしくは「とても心配している」を選択した日本の回答者の割合は全体で22.8%となりました。「ほどほどに」「少し」まで含めると、「心配している」人は全体で87.3%という結果となります。男女別では、「心配している」人は男性83.9%、女性90.8%と、女性の方が約7ポイント高くなりました。年代別では、「心配している」割合は年代が上がるほど増える結果となりました。

2. 16-25歳の若年層は、気候変動により生じる悲観的な感情が他の年代と比べて高い

気候変動を心配する割合は他の年代よりも低い16-25歳でしたが、気候変動によりもたらされる悲観的な感情の回答率は総じて他の年代より高く、「落ち込み」「絶望」といった感情への反応は年代が若いほど高いことがわかりました。若年層であるほど、気候変動に対し、悲嘆に近い負の感情を抱いている傾向があることがわかります。また、16-25歳よりは低くなりますが、他の年代も「悲しみ」「諦め」といった感情を抱いていることもわかりました。

3. 16-25歳の若年層は政府の気候変動に対する取り組みについて「安心している」割合が最も高い

気候変動に対する政府の取り組みについての考えを聞いたところ、16-25歳の若年層の44.8%が「安心している」(「完全に」+「とても」+「まあまあ」+「少し」安心している・計)と回答し、他の年代よりも政府の取り組みについて肯定的に捉えている割合が高いことがわかります。ですが、政府の取り組みを肯定的に評価する傾向はあるものの、「まったく安心していない」と答えた割合も41.9%と「安心している・計」に近い値となっており、政府の取り組みに関しては意見が拮抗していると言えます。

4. 女性や16-25歳の若年層の方が、他の属性よりも気候変動に対する感情で日常生活にネガティブな影響を受けている

「気候変動に対する感情は、私の日常生活(食事、集中力、仕事、学業、睡眠、自然の中で過ごすこと、遊ぶこと、楽しむこと、恋愛のうち少なくとも一つ)にネガティブな影響を与えている」かどうか尋ねる質問に対し、「はい」と答えた割合は、男性が41.4%、女性が47.8%と、女性の方が高くなりました。年代別で見ると、どの世代も4割以上が気候変動に対する感情からネガティブな影響を受けており、特に16-25歳は、46-55歳、56-65歳の年代と比べ有意に多く日常で影響を受けていることがわかります。

 図1では、女性は「気候変動の影響について心配する」割合が他の属性よりも高く、16-25歳の若年層は低いということを示していました。ネガティブな影響を受ける割合が女性と16-25歳において特に高いことは、「気候変動が人びとや地球を脅かすことを心配」しているかどうかにかかわらず、人びとは日常生活において気候変動に対する感情でネガティブな影響を受けうるということを示唆していると言えるでしょう。

性・年代別で見てみると、気候変動に対する感情から受けるネガティブな影響が最も高いのは女性の16-25歳でした。男性の46-55歳が最も低く、その差は16ポイントという大きな開きがある結果になりました。それぞれの性別の中で見ても、年代によって差が出ています。女性は最も高い16-25歳と最も低い56-65歳の差が6.8ポイント、男性は最も高い16-25歳と最も低い46-55歳の差が12.1ポイントとなり、有意に若年層への影響が高いことがわかりました。気候変動に対する感情から受けるネガティブな影響は、性別による差も確かにありますが、年代差も大きく関係していることがわかります。特に、女性は全世代が影響を受けている傾向にありますが、男性は年代差があると言えます。

5. 16-25歳の若年層ほど、気候変動対策のための活動率が高く、活動自体を楽しむ傾向にある。

「気候変動対策のための活動」をしている割合は、16-25歳がいずれの活動についても高いということがわかりました。

また、活動をした経験のある人に「気候変動対策のための活動」に参加したときに感じたことを聞いてみました。「活動自体が楽しかった」(50.9%)「自分の幸福度が高まった」(41.2%)「仲間が増えた」(38.0%)という回答が16-25歳の若年層においていずれも他の年代より高く挙げられており、他の年代と比べてより活動自体からポジティブな影響を受けていることがわかります。

しかし、「気候変動対策のための活動」をすることで「気候変動に対する恐れや不安が強まった」と回答する割合はどの年代でも半数を超えており、活動をすることが気候不安を緩和することにはならないという厳しい側面も見えてきました。

◎レポート詳細はこちらからご参照ください。

【電通総研コンパス第9回調査】気候不安に関する意識調査_日本国内版.pdf

考察とまとめ

 本調査を用いた11か国比較(国際比較版)からは、気候変動に対して不安を抱きつつも、未来にもたらしうる具体的な影響を深刻に捉えている人は他国よりも少ないという日本の若年層の姿が浮かび上がりました。ですが、国内で比較をしてみると、気候変動についてやや悲観的な感情が強く、他の属性よりも気候不安によりネガティブな影響を日常で受けており、気候変動対策のための活動率も一番高いという、また違った若年層の姿が見えてきます。若年層は他の年代と比べて政府の対策に肯定的という特徴もうかがえましたが、現在の対策しか知らないという年代的な制約や、気候変動に対する彼らの悲観的な感情から、とられている対策を信じたいという思いがある可能性もあり、肯定派の捉え方についても、一定の留保が必要かもしれません。

 また、全ての年代に関して、気候変動対策のための行動をとることで、気候変動に対する恐れや不安が強まってしまう傾向が存在するということもわかりました。問題の根深さや深刻さを学ぶことで恐れや不安が強まってしまうという帰結はごく自然であり、それは必ずしも悪いことではないという側面もあるでしょう。ですが、行動の形態によって恐れや不安を和らげる効果に差が出るという点も近年指摘されています。気候変動に対する行動のうち、個人的な行動(ごみを分別したり、環境に良いものを買ったりするなど)ではなく、集団的な行動(デモやチームでの清掃活動など)であれば、不安を軽減するという研究結果も出ており1、複数人で行動を起こすことが気候不安を和らげる鍵になる可能性が示唆されています。

 日本においては、気候変動が及ぼす影響を心配する割合は上の年代ほど高い一方で、気候不安がもたらすネガティブな影響は、16-25歳の若年層や、女性といった属性により強く及んでいることがわかりました。また、16-25歳の若年層は気候変動対策の行動をとる割合が最も高いという結果も出ました。気候変動を心配する気持ちは上の世代が下の世代へ、行動することは下の世代から上の世代へと伝えていくことで、世代を超えて気候変動について考え、ともに行動していくことが、気候不安そのものも和らげていくことにつながるでしょう。

※1:Schwartz, S.E.O., Benoit, L., Clayton, S., et al. Climate change anxiety and mental health: Environmental activism as buffer. Curr Psychol (2022).

*グラフ内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しています。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。

調査概要

●日本調査
タイトル:「電通総研コンパス」第9回調査(気候不安に関する意識調査)
調査時期:2022年10月12日~16日
調査手法:インターネット調査
対象地域:全国
対象者:16~65歳の計5,000人
調査会社:株式会社電通マクロミルインサイト

●10か国
タイトル:Climate anxiety in children and young people and their beliefs about government responses to climate change: a global survey
調査時期:2021年5月18日~6月7日
調査手法:インターネット調査
対象地域:英国、フィンランド、フランス、米国、オーストラリア、ポルトガル、ブラジル、インド、フィリピン、ナイジェリア
対象者:16~25歳の計10,000人(各国1,000人)
調査会社:Kantar

本調査内容に関する問合せ先
電通総研 山﨑・若杉・中川
E-mail: qsociety@dentsusoken.com

Text by 若杉茜

Image © Malchevska - stock.adobe.com



若杉茜 わかすぎ・あかね

電通総研プロデューサー/研究員

2022年4月より電通総研。活動テーマは「ケア」「ウェルビーイング」。クリエーティブ、コミュニケーションプランニングの実務経験と人文系研究のバックグラウンドを生かして研究活動をおこなう。

2022年4月より電通総研。活動テーマは「ケア」「ウェルビーイング」。クリエーティブ、コミュニケーションプランニングの実務経験と人文系研究のバックグラウンドを生かして研究活動をおこなう。