電通総研

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「クオリティ・オブ・ソサエティ」レポート
こちらは2023年までの電通総研が公開した調査関連のレポートです。過去のレポート記事は、以下のリンクからご覧いただけます。毎年掲げるテーマに即した、有識者との対談、調査結果、海外事例、キーワードなどがまとめられています。
樋泉実氏
地域の未来のために。価値を磨き上げるということ。

長年、放送界から広く地域の社会課題に取り組んできた電通総研フェローの樋泉実氏に、「今、地域づくりに必要な視点」についてお話を伺いました。

聞き手:合原兆二

2030年以降の日本型ポストSDGsへ向けて

―さまざまなフィールドで活動されている樋泉さんから見て、社会に対する人びとの意識はどのように変わってきていると思いますか。そして、今、必要なことは何でしょうか。

近年、若年層を中心に「環境意識」が高まっているように感じます。これは、2008年の学習指導要領改訂を機に環境教育の充実が図られたことも影響しているのではないかと思っています。また、2011年の東日本大震災を契機に「社会参加」や「地域貢献」への意識も高まったように感じます。東日本大震災の時に多感な時期を過ごした方々を社会人として迎えるようになった頃から、入社の志望動機として「仕事を通じて地元に貢献したい」という声を多く聞くようになりました。仕事を選ぶ基準も、時代とともに変化してきているのかもしれません。そして、新型コロナウイルス感染症の拡大を機に人びとの間に互いに応援し合いたいという意識が高まり、地域に対する共感も広がっているように感じます。商品を買う際に地元の産品を優先的に購入するといったことも、その一例です。人びとの価値観や意識も社会変化とともに変わるので、その時代に応じて、今何をすべきか考える必要があります。

一方で、現在のSDGsは、2030年までに達成すべき目標として掲げられていますが、2030年以降、私たちはどうしていくべきかについて考える必要があると思っています。そのためには、30年、50年といった長期的な視点で社会課題を捉えて考えていかなければいけません。世界共通の目標だけではなく、日本独自の「日本型ポストSDGs」を考えて行動することが、必要となるでしょう。

未来への種まきの重要性

―具体的には、どのような視点から社会課題や地域課題を考えることが必要なのでしょうか。

電通総研がおこなった「気候不安に対する意識調査」では、海外に比べ、「気候変動による不安」を感じる若者は日本では相対的に少ないという結果がありました。(図1)

しかし気候変動による海水温上昇の影響により、北海道では、獲れる魚の種類が大きく変わってきています。また、温暖化により、ワインの生産において、かつては北海道での栽培が難しかったぶどう品種もつくられるようになってきました。このことからもわかるように、気候変動は地域の食文化にも大きく影響を与えます。気候変動だけでなく、食料生産を取り巻く環境変化、人口減少による担い手や後継者不足、高齢化による医療・介護などといった問題も食文化へ大きな変化をもたらします。

食文化は定着するまでに20~30年の時間がかかります。さまざまな社会課題に気づいて共に行動していかないと、30年後の食文化は非常に大変なことになるのではないかと危惧しています。逆に言えば、今から「30年後の食文化」をイメージすることで、おのずと準備すべきことが見えてくるのではないでしょうか。過去を変えることはできません。今を分岐点と捉え、30~50年といった長期的な視点で種をまくことが私たちには求められているのではないかと思います。

地域の価値は自ら磨く

―地域で取り組むべきことはどのようなことでしょうか。

京都大学の広井良典教授が「多極分散型社会※1」と言われているように、これからは、地域の重要性が高まる時代です。その中核となるのが、歴史的価値、地政学的な強みなど、それぞれの地域で育まれてきた、生活文化に根差した価値です。地域の価値を自ら磨き、さらに磨き上げていくことが非常に大切な時期になってきています。加えて今はそうした地域の価値をグローバルに発信するしくみが整っています。しかしその際、注意しなければならないのは、自己満足や自慢話にならないようにすることです。その地域の中からの意見だけではなく、外の目からの厳しい意見を取り入れることがとても重要となります。一過性、短期的なものではなく、次の時代を意識して、長期的な視点で取り組むことが必要です。

※1:電通総研「広井良典×谷尚樹 それぞれが好きな山に登れるように」

長期的視点を持ちつつ、地域性や現在の環境を考慮した「時代に合わせた新しい地域づくり」が求められているのではないでしょうか。それが「持続可能なまちづくり」となり、最終的に「地域の魅力」を高めることにつながっていくのではないかと思います。

―ありがとうございました。

電通総研では、「地域」と「次世代」を重点テーマに活動してきました。今年は特に「地域における食文化」を中心に、次世代のことを考えながら既に実践している人びとや取り組みについて、今後、記事でご紹介していきたいと考えています。

Text by Choji Gobaru



樋泉実 といずみ・みのる

電通総研フェロー

1949年山梨県生まれ。1972年慶應義塾大学文学部卒業、北海道テレビ放送入社。メディア企画室長、取締役メディア企画センター長、専務取締役デジタル推進担当などを経て、2011年6月代表取締役社長に就任。2014年6月~2016年5月、日本民間放送連盟副会長。2018年10月北海道テレビ放送取締役相談役、2019年6月同相談役。同年、旭日中綬章受章。
現在、電通総研フェロー。北海道大学 産学・地域協働推進機構 客員教授。

1949年山梨県生まれ。1972年慶應義塾大学文学部卒業、北海道テレビ放送入社。メディア企画室長、取締役メディア企画センター長、専務取締役デジタル推進担当などを経て、2011年6月代表取締役社長に就任。2014年6月~2016年5月、日本民間放送連盟副会長。2018年10月北海道テレビ放送取締役相談役、2019年6月同相談役。同年、旭日中綬章受章。
現在、電通総研フェロー。北海道大学 産学・地域協働推進機構 客員教授。

合原兆二 ごうばる・ちょうじ

電通総研 プロデューサー/研究員

1990年、大分県日田市生まれ。中央大学商学部卒業後、2013年、株式会社電通九州に入社。福岡本社営業局、北九州支社を経て、2022年4月より電通総研。各種調査のほか、「地域」「メディア」「持続可能な食文化」などをテーマに活動。

1990年、大分県日田市生まれ。中央大学商学部卒業後、2013年、株式会社電通九州に入社。福岡本社営業局、北九州支社を経て、2022年4月より電通総研。各種調査のほか、「地域」「メディア」「持続可能な食文化」などをテーマに活動。