電通総研

JP EN
「クオリティ・オブ・ソサエティ」レポート
こちらは2023年までの電通総研が公開した調査関連のレポートです。過去のレポート記事は、以下のリンクからご覧いただけます。毎年掲げるテーマに即した、有識者との対談、調査結果、海外事例、キーワードなどがまとめられています。
サステナブル・ライフスタイル意識調査2023
サステナブル・ライフスタイル・レポート2023

電通総研と電通は共同で、2021年に続き3回目となる「サステナブル・ライフスタイル意識調査2023」を実施しました。調査エリアは、東アジアから日本・中国、西欧からフランス・ドイツ、東南アジアからインドネシア・タイの6か国です。各国18~69歳1,000名で合計6,000名を対象にしています。

前回2021年調査時はコロナ禍の影響によって医療制度や公衆衛生に関心が持たれていました。また、例えばアメリカで始まったBlack Lives Matterなど、人権に関する社会問題も注目されていました。その後、ロシア・ウクライナ戦争、世界的な物価の高騰、気候変動による異常気象や水不足などが起こり、企業に対してはサステナビリティに関する情報開示の要求が高まりました。このような変化を反映してか、今回の調査では、サステナビリティは「意識が高い人・団体が取り組む特別なもの」にとどまらず、日常生活に直結すること、すべての人が取り組む課題と感じられていることが見えてきています。

この記事は、調査結果のうち、サステナビリティに関する意識や行動の国際比較を中心にまとめました。

◎レポート詳細はこちらからご参照ください。
 サステナブル・ライフスタイル意識調査2023

調査結果

1.サステナビリティについて考える頻度が増えた国、変わらない国

「直近3年間でサステナビリティについて考える頻度が増えた」と回答した人(「とても増えた」「やや増えた」の計)は、中国(84.1%)、インドネシア(81.5%)、タイ(80.9%)では8割を超えています。次いで、フランス(66.9%)、ドイツ(64.0%)が6割を超えていて、日本(39.3%)との差がありました。日本では、「変わらない」(58.8%)と回答した人が過半数です。(図1)

2.身近なサステナビリティは、ごみを減らすこと

それでは「サステナビリティ」という言葉を、人びとはどのように認識しているのでしょうか。 「サステナビリティ」についてどのようなイメージがあるかを尋ねたところ、6か国ともに廃棄物の削減に関わる「一般市民がごみを減らすこと」または「企業が廃棄物を減らすこと」が上位となりました。調査では他にも幅広くサステナビリティに関連する選択肢を提示しました。例えば「各国・政府が平和を維持すること」「各国・政府が教育の平等な機会をつくること」「企業が持続的な収益をあげ、雇用や経済を安定させること」「企業が環境・社会への責任を果たすこと」「一般市民が自然に近い暮らし・人間らしい暮らしをすること」「一般市民が環境・社会を考え、モノの選び方や生活を変えること」などです。そのように幅広く提示した中で、どの国においても廃棄物の削減に関するイメージが想起の上位にあることが注目されます。身近な「サステナビリティ」として「ごみを減らすこと」との結びつきの強さがうかがえます。(表1)

3.環境に配慮した生活行動は、しくみが整っていることと関係する

環境に配慮したさまざまな生活行動について、「あなたご自身が生活に取り入れているもの」としてその程度を尋ねました。グラフは、選択肢の「よくする」「たまにする」「しない」のうち、「よくする」と回答した割合の降順で6か国を並べています。

■モノの買い方

「プラスチック製品を買わない・捨てない」のはインドネシア(40.9%)・フランス(39.3%)・中国(39.0%)です。海洋プラスチックごみへの課題意識から、プラスチック製品そのものを減らす方向にかじを切っている国がいくつもあります。インドネシアは外国からプラスチック製品のリサイクルを請け負ってきた背景がありますが、現在は厳格にプラスチック廃棄物の輸入を禁止※1しています。さらに河川やビーチから海洋に流出するプラスチック廃棄物を減らすための行動計画が公表※2されています。また、フランスではデリバリーやテイクアウトの食器・包装にプラスチック製品を使わないことが義務づけられるなど、プラスチック製品の削減に向けた規制が機能し始めています。(図2)

「詰め替え商品を買う」で上位の日本(69.6%)・インドネシア(67.5%)・タイ(64.7%)では、多くの日用品で、詰め替え商品が店頭に並んでいます。詰め替え商品へのアクセスが容易なこれらの国とは異なり、ドイツ・フランス・中国では詰め替え商品が多くないこともあり、よく購入する人の割合が低いようです。(図3)

※1 インドネシアでは、2000年代後半にプラスチック廃棄物の輸入禁止が法制化されていたが、「廃棄物」の定義が曖昧であったためにその後もプラスチック廃棄物が輸入されていた。中国、マレーシア、タイ、ベトナムなどの国がプラスチック廃棄物の輸入厳格化・禁止を決め、インドネシアでも2019年から厳格化された。

※2 インドネシアの官民・非営利団体パートナーシップ National Plastic Action Partnership(NPAP)は2020年に「Radically Reducing Plastic Pollution in Indonesia: A Multistakeholder Action Plan(インドネシアのプラスチック汚染の徹底的な削減−マルチステークホルダー行動計画)」を発表。

■モノの捨て方とリサイクル

「ごみ分別やリサイクルで、廃棄を減らす」の上位はドイツ(79.2%)・フランス(77.6%)でした。次いで日本と中国(いずれも63.9%)・タイ(60.6%)・インドネシア(54.0%)と、どの国でも過半数が分別やリサイクルをよくしています。分別やリサイクルが当たり前の行動として根づいていることがうかがえます。(図4)

「衣類・玩具・容器などを店舗の回収ボックスに持っていく」で1位のフランス(42.6%)では、地区の歩道や一般道路に衣類・靴・バッグなどの専用回収ボックスが設置されていて、回収のしくみが整っています。これら回収された衣類などは選別され、リサイクルや再販、寄付等に役立てられています。※3(図5)

※3 フランス(2022年)における衣類・靴・リネンの生産量は約83万トン。2021年には約24万トンの古着が回収され、そのうち約19万トンが選別された。選別後の古着は58%がリユース、33%がリサイクル、9%が固形燃料として再活用された。

■エコバッグとマイボトル

「エコバッグを使用する」については、6か国すべての国で6割以上がよく使用すると回答しています。1位は日本(77.9%)で、プラスチック製レジ袋の有料化から3年が経ち、すっかりエコバッグが根づいていることがうかがえます。(図6)

「マイボトルを持ち歩く」ことはエコバッグには及びませんが、それでも6か国すべての国で4割以上がよく持ち歩くと回答しました。マイボトルでの提供が可能なカフェや、給水スポットの位置情報が分かるアプリがさまざまな都市で使えるようになり、日常に浸透してきているようです。(図7)

■食を通した環境への配慮

「レストランで余った食べ物を持ち帰る」は1位の中国(66.9%)から最下位の日本(10.4%)に至るまで、国による差が見られました。余った食べ物を持ち帰る習慣がもともと根づいている国もあれば、法律で義務づけている国、食品衛生面から持ち帰りを避けている国など、さまざまな背景があります。しかし、食品廃棄への関心の高まりから、持ち帰り容器が準備されているレストランは世界で増えていくと思われます。また、その容器もプラスチック製品ではなく、リサイクル可能な素材やリユース容器になる傾向が、各国におけるプラスチック製品削減に関する規制※4などを通して推測されます。(図8)

「植物由来の代替肉を食べる」で1位のインドネシア(29.5%)は世界最大のイスラム教徒人口を有する国です。そのため、宗教的な配慮から、ファーストフード店やカフェで植物由来のメニューを提供する店舗が増えています。それに対して、最下位の日本(5.5%)では、店頭の片隅に植物由来の代替肉を見かけることがある程度で、浸透には程遠い状況です。しかし、植物由来の代替肉は世界的に開発が進められており、宗教的な配慮、健康や環境配慮の視点から選択可能な素材として、今後さらに注目を集めるものと思われます。(図9)

※4 例えば、EU加盟国では2030年までにおこなう包装容器類の廃棄物削減の目標値が設定されており、包装容器類をリサイクル可能な素材に移行することや再利用の義務づけが定められているなど、世界的にプラスチック製品に関する規制が広がってきている。

*グラフ内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しています。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。

**本調査(各1,000サンプル)の標本サイズの誤差幅は、信頼区間95%とし、誤差値が最大となる50%の回答スコアで計算すると約±3.2となります。国ごとの比較で±3.2ポイント以上あるものは、有意な差があるとみなされます。

調査概要
タイトル:サステナブル・ライフスタイル意識調査2023
調査時期:2023年7月12日~8月21日
調査手法:インターネット調査
対象地域:6か国(日本・中国・フランス・ドイツ・インドネシア・タイ)
対象者:18~69歳 計6,000名(各国1,000名)
調査会社:トルーナ・ジャパン
本調査内容に関する問合せ先
電通総研 山﨑・中川・小笠原・小泉・若杉
E-mail:qsociety@dentsusoken.com

Text by Mayumi Nakagawa



中川真由美 なかがわ・まゆみ

電通総研 チーフプロデューサー/主任研究員

徳島県生まれ。2002年株式会社電通に入社し、マーケティング、イベント、PR、ビジネスプロデュースなどの領域を担当。2023年より電通総研。人間科学的アプローチから、主にDEI、学びなどを研究する。

徳島県生まれ。2002年株式会社電通に入社し、マーケティング、イベント、PR、ビジネスプロデュースなどの領域を担当。2023年より電通総研。人間科学的アプローチから、主にDEI、学びなどを研究する。