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「クオリティ・オブ・ソサエティ」レポート
こちらは2023年までの電通総研が公開した調査関連のレポートです。過去のレポート記事は、以下のリンクからご覧いただけます。毎年掲げるテーマに即した、有識者との対談、調査結果、海外事例、キーワードなどがまとめられています。
クオリティ・オブ・ソサエティ指標2023 ②
社会に関する人びとの意識・価値観の現在地

電通総研は全国12,000名を対象に「クオリティ・オブ・ソサエティ指標」の調査を実施しました。
本記事では、社会に関する人びとの意識・価値観の時系列変化や新たに設問に加えたものをピックアップして取り上げます。

「クオリティ・オブ・ソサエティ指標2023 調査レポート」はこちら

※2023年より「クオリティ・オブ・ソサエティ年次調査」と「クオリティ・オブ・ソサエティ指標」の2つの調査を統合いたしました。

時系列変化や年代差が特徴的なもの

1.日本人であることへの誇り
2023年調査では「あなたは、日本人であることに誇りを感じますか」という設問に対し、「誇りを感じる(計)」人の割合は60.6%、「誇りを感じない(計)」人の割合は11.8%となりました。2019年からの5年間の変化を見ると、「誇りを感じる(計)」は11.6ポイント減少し、「誇りを感じない(計)」は4.9ポイント増加する結果となりました。日本人であることに「誇りを感じる」人は年々減少しています(図1)。

2. 身体の健康・心の健康
「身体の健康」と「心の健康」について、「ご自分のことを健康だと思いますか」とそれぞれ尋ねました。2023年調査では、身体の健康について「健康だと思う(計)」が56.0%、心の健康について「健康だと思う(計)」が53.6%となりました。身体の健康では、過去5年間で比較すると「健康だと思う(計)」が初めて6割を下回る結果となりました。心の健康では、わずかではあるものの年々「健康だと思う(計)」が減少しています(図2)。

年代別に見ると、身体の健康は40代~60代が他の年代に比べ「健康だと思う(計)」がやや少ない傾向でした。心の健康を見ると、18歳~50代までは「健康だと思う(計)」が半数を下回っており、60代、70代と年代が上がるほど、「健康だと思う(計)」が多い傾向にあります(図3)。

3.人間関係・社会関係の良好度合
「ご自分の人間関係・社会関係は良好だと思いますか」という設問に対し、「良好だと思う」から「良好だとは思わない」の5段階で尋ねました。2020年から過去4回尋ねている項目です。2023年では「良好だと思う(計)」が56.2%となり、2020年と比較すると1.8ポイント減少となりました。時系列で見ると大きな変化はありません(図4)。

今年の結果を年代別に見ると、男性18歳~50代の「良好だと思う(計)」が半数を下回りました。男女ともに60代、70代は「良好だと思う(計)」が多い傾向にあります(図5)。

2023年調査における新設項目

4.日本らしい文化の魅力
「日本らしい文化として、魅力的と感じるもの」を30項目の中から複数回答で選んでもらいました。もっとも多かったのは「食文化」51.0%で、次いで「自然・風景」49.9%、「歴史的建造物・神社仏閣」46.3%、「伝統工芸品」42.3%、「温泉・入浴文化」42.1%という結果となりました(図6)。

※「日本らしい文化として、魅力的と感じるもの」の選択肢
「自然・風景(四季なども含む)」「食文化(郷土料理、特産物なども含む)」「歴史的建造物・神社仏閣」「伝統芸能(歌舞伎、能、狂言など)」「伝統工芸品(織物、陶磁器、漆器、染織品、木工品、和紙など)」「精神文化・美意識(禅、わびさび、粋など)」「年中行事・風習・祭り」「伝統音楽(長唄、筝曲、義太夫、和太鼓など)」「マンガ」「アニメ」「ポップス、ロック、ジャズ、歌謡曲、演歌など」「映画・映像作品」「ゲーム」「ファッション」「温泉・入浴文化」「武道(柔道、剣道、空手、合気道など)」「相撲」「茶道・華道・香道」「浮世絵・日本画」「現代アート(現代美術)」「日本語(方言なども含む)」「伝統的な酒造り(日本酒、焼酎、泡盛など)」「盆栽」「錦鯉・金魚」「俳句・和歌」「文学(小説、詩など)」「演芸(落語、漫談、講談など)」「着物・和服」「その他」「あてはまるものはない」

5.住んでいる地域への「誇り」「魅力」「愛着」
ご自身の住んでいる地域(都道府県)について、「誇りを感じる」「魅力を感じる」「愛着を感じる」程度を、それぞれ尋ねました。「そう思う(計)」を見ると、「愛着」が59.1%、「魅力」が47.3%、「誇り」が38.7%の順に高く感じられている結果となりました(図7)。

6.社会人の学びの現状と意向
社会人の学びとして「リスキリング」「リカレント教育」「生涯の学び」の現状について、「現在学んでいる」「今後学ぼうとしている(現在は学んでいない)」「学ぶことに興味はあるが、実際にはできないと思う」「学ぶことに興味がない」「その他」「あてはまるものはない」から、それぞれ選んでもらいました。「あてはまるものはない」という回答を除くと、いずれも「学ぶことに興味はあるが、実際にはできないと思う」「学ぶことに興味がない」の順に高い結果となりました。「現在学んでいる」または「今後学ぼうとしている」と回答した人は、リスキリングで10.9%、リカレント教育で9.1%、生涯の学びで22.0%と、リスキリングやリカレント教育と比較すると、「生涯の学び」に対する関心がやや高い様子がうかがわれます(図8)。

※「リスキリング」とは、Re-skilling(再度スキルを身につける)の意味で、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」(経済産業省)です。

※「リカレント教育」とは、社会に出た後、将来の就労に向けて学び直すことです。仕事を辞めて学び直すことも、仕事を辞めずに(休まずに)学び直すことも含まれますが、新たな就労を目的としています。また、専業主婦/夫の方や、定年退職された方など、現在働いていない方が、就労に向けて学び直すことも含まれます。

※「生涯の学び」とは、就労や昇給に直接的な関係がなく、「自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるように」(文部科学省)ご自身の興味・関心を広げたり深めたりするための学びです。

まとめ

本記事では時系列変化や年代による特徴が見られたものと、新たに追加した設問の一部を取り上げました。調査開始以来、新型コロナウイルス感染症の蔓延やロシア・ウクライナ戦争など、社会に大きなインパクトを与える出来事がありました。

そのような社会環境の変化が大きい中で実施した調査結果を概観すると、「日本人であることへの誇り」は年々減少しており、働き盛り世代では「身体の健康・心の健康」や「人間関係・社会関係の良好度合」が他の世代と比べ低いことなど、現在そしてこれからの日本社会について考えさせられる点が数多くありました。

また、日本らしい文化の魅力として「食文化」が過半数から挙げられたこと、地域への「愛着を感じる」との回答が過半数を占めること、リスキリングやリカレント教育よりも生涯の学びへの関心が感じとれることなども、示唆的な結果です。移動や経済活動に制限のかけられていたコロナ禍を経た今、国境を越えた移動が復調し、地域経済を含めた日本社会全体の活性化が期待されています。今回調査結果から得られた示唆をもとに電通総研では今後、地域や学びについての観点からの研究も掘り下げてまいります。

*グラフ内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づいて算出し四捨五入で表記しています。そのため、各割合の単純合算数値は必ずしも100%とならない場合があります。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。

*12,000サンプルの標本サイズの誤差幅は、1.96×0.5*0.5/109.544=0.9/100となります。よって過去調査・他項目との比較で±1ポイントの差があれば有意な差があるとみなされます。

「クオリティ・オブ・ソサエティ指標2023」
調査時期 :2023年6月14日~7月4日
調査方法 :インターネット調査
対象地域 :全国
対象者  :18~79歳の男女計12,000名(都道府県×性年代の人口構成比に合わせて回収) 
調査会社 :株式会社電通マクロミルインサイト 
本調査に関する問合せ先
電通総研 担当:山﨑、中川、小笠原、合原、日塔 
E-mail: qsociety@dentsusoken.com
URL: https://qos.dentsusoken.com

Text by Choji Gobaru
Photograph by Maxx Gong on Unsplash



合原兆二 ごうばる・ちょうじ

電通総研 プロデューサー/研究員

1990年、大分県日田市生まれ。中央大学商学部卒業後、2013年、株式会社電通九州に入社。福岡本社営業局、北九州支社を経て、2022年4月より電通総研。各種調査のほか、「地域」「メディア」「持続可能な食文化」などをテーマに活動。

1990年、大分県日田市生まれ。中央大学商学部卒業後、2013年、株式会社電通九州に入社。福岡本社営業局、北九州支社を経て、2022年4月より電通総研。各種調査のほか、「地域」「メディア」「持続可能な食文化」などをテーマに活動。