電通総研

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「クオリティ・オブ・ソサエティ」レポート
こちらは2023年までの電通総研が公開した調査関連のレポートです。過去のレポート記事は、以下のリンクからご覧いただけます。毎年掲げるテーマに即した、有識者との対談、調査結果、海外事例、キーワードなどがまとめられています。
サステナブル・ライフスタイル意識調査2023
サステナブル・ライフスタイル・レポート2023③

電通総研と電通は共同で、2021年に続き3回目となる「サステナブル・ライフスタイル意識調査2023」を実施しました。調査エリアは、東アジアから日本・中国、西欧からフランス・ドイツ、東南アジアからインドネシア・タイの6か国です。各国18~69歳1,000名で合計6,000名を対象にしています。

2023年は、記録的な高温や熱波がもたらす健康や農作物への影響、ハリケーン・山火事といった自然災害など、地球温暖化による気候変動が引き起こした被害が多く確認されました。同時に、紛争・戦争も暮らしに大きな影響を及ぼしています。

この記事は、調査結果のうち、気候変動や紛争・戦争、経済不安などがもたらす暮らしへの影響を中心にまとめました。

◎調査結果の全体的傾向はこちらをご参照ください。
サステナブル・ライフスタイル・レポート2023

調査結果

1.気候変動は6か国全ての人びとの暮らしに大きな影響を与えている

「気候変動の影響を受けていると思う領域」を尋ねたところ、6か国平均で「食と水の安全84.2%」が最も高く、次いで「生活コスト84.0%」「経済的安全保障79.6%」「グローバル経済 79.2%」「国内経済 78.6%」と経済領域の回答が多く挙げられています。

そのほか、国内外の政治、身体的健康・メンタルヘルスなども挙げられており、暮らしを取り巻く広い領域において気候変動の影響を感じていることがわかります。(図1)

 図1 気候変動の影響を受けていると思う領域

2.他国での紛争や戦争は自国の生活に影響する

日々ニュースで報じられる紛争・戦争の影響については、全ての調査国において約7~8割が「他国での紛争や戦争が自国の生活に影響している」と回答しています(図2)。
自国から遠い地で起きている紛争・戦争であったとしても、各国の安全保障に大きな影響を与えると同時に、不安定な経済状況を招く恐れもあります。実際、今回調査対象となった6か国では、食品やエネルギー価格の高騰、物流難などがインフレーションの原因の一つにもなり、人びとの暮らしに何かしらの影響を与えているようです。

図2 他国での紛争や戦争が自国の生活に影響している

3.「未来」への不安と、変わり始める日々の暮らし

気候変動や紛争・戦争は、暮らしにどのような影響を及ぼしているか、その影響と最も関連が深いと思われる項目として、経済状況が挙げられます。「生活費や購買に関する意識(図3)」では、6か国全てで6~8割の人が「今後の生活費が心配だ」と答えており、人びとは今後の暮らしに不安感をもっていることがわかります。また、「物価が上がっても自分の収入は増えない」と考える人が多い日本(80.9%)・ドイツ(79.4%)・フランス(78.9%)では、生活水準低下に対する不安が特に強いことがうかがえます。そうした不安からか、「地球環境に配慮したものよりも、価格が安いものを選ぶ」と考える人が多い日本(67.3%)・ドイツ(54.1%)・フランス(47.7%)では、経済不安に伴って環境に配慮する余裕がなくなっている傾向が見られます。環境への配慮にも費用とのバランスが求められていると言えそうです。

図3 生活費や購買に関する意識

6か国共通の傾向としては、「今後の暮らしを維持するために消費を抑えなくてはいけない」と考える人が6か国全てで7割を超えること(図4)、そして実際に「消費を減らす努力をしている」と回答した人も6か国全てで7割以上いること(図5)が挙げられます。先行き不透明な世界経済の状況下で、消費を抑制する傾向が色濃く結果に出ています。

図4 今後の暮らしを維持するために消費を抑えなくてはいけない

図5 買わない、買う頻度を下げるなど消費を減らす努力をしている

4.底流にある価値観

余裕のない状況の中で、底流にある価値観はどうなっているでしょうか。
まず、調査した6か国全てで7割を超える人が、自国の人びとは「自然を大切に思う心がある」と思っています(図6)。
また、図1に挙げた「気候変動の影響を受けていると思う領域」からは未来に対する不安がうかがわれましたが、そうした不安を背景に、6か国全てで半数を超える人びとが「100年後の地球環境のことを考えて行動すべきだ(6か国平均62.0%)」と考えています(図7)。

図6 自国の人びとにあるかどうか―自然を大切に思う心

図7 100年後の地球環境について

5.調査結果を振り返って

今回の調査では、調査対象国全ての人びとが、気候変動によって暮らしのさまざまな領域に影響を受けていると感じていることがわかりました(図1)。また、今後の生活費に関して心配していること、日本・ドイツ・フランスは「地球環境に配慮したものよりも、価格が安いものを選ぶ」傾向があること(図3)から、暮らしに余裕がない様子も垣間見えました。

一方で、自国の人びとには自然を大切に思う心があり(図6)、また100年後の地球環境のことを考えて行動すべきだと考える人が半数を超えていました(図7)。人びとが有するこれらの考えは、明るい未来への糸口を見いだすポジティブな材料として捉えることができるのではないでしょうか。そして自然を含む大切な地球環境を守るためには、一人一人が知性や倫理観を育み、社会で広く共有していくことが肝要と思われます。

*グラフ内の各割合は全体に占める回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しています。また、各割合を合算した回答者割合も、全体に占める合算部分の回答者の実数に基づき算出し四捨五入で表記しているため、各割合の単純合算数値と必ずしも一致しない場合があります。

**本調査(各1,000サンプル)の標本サイズの誤差幅は、信頼区間95%とし、誤差値が最大となる50%の回答スコアで計算すると約±3.2となります。国ごとの比較で±3.2ポイント以上あるものは、有意な差があるとみなされます。

調査概要
タイトル:サステナブル・ライフスタイル意識調査2023
調査時期:2023年7月12日~8月21日
調査手法:インターネット調査
対象地域:6か国(日本・中国・フランス・ドイツ・インドネシア・タイ)
対象者:18~69歳 計6,000名(各国1,000名)
調査会社:トルーナ・ジャパン
本調査内容に関する問合せ先
電通総研 山﨑・中川・小笠原・小泉・若杉
E-mail:qsociety@dentsusoken.com


Text by Tomohisa Koizumi



小泉朋久 こいずみ・ともひさ

電通総研プロデューサー/研究員

1982年、東京都目黒区生まれ。多摩美術大学卒業。2023年1月より電通総研。現在の活動テーマは「デジタル時代におけるリアル」「サステナブル・ライフスタイル」。国際交流やクリエイティブ領域での実務経験を生かし研究活動をおこなう。

1982年、東京都目黒区生まれ。多摩美術大学卒業。2023年1月より電通総研。現在の活動テーマは「デジタル時代におけるリアル」「サステナブル・ライフスタイル」。国際交流やクリエイティブ領域での実務経験を生かし研究活動をおこなう。